「ブラックドラゴン、脅かすのはやめて。この場に害意がある人はいないから」

思わずわたしがそう言うと、ブラックドラゴンはバツが悪そうな顔をした。

《む……そうか?先んじる事が重要かと思うが》
「喧嘩を売ってるわけじゃないんだから。今日はみんな結婚式や婚約式のお祝いに、遠路はるばる駆けつけてくださったの。だから、そんな失礼極まりない態度はやめて」
《そ、そうか》

ブラックドラゴンが肩を落として翼と頭をしゅん…と項垂れると、賓客席からクスクスと軽い笑い声。緊張感が解けて和やかな雰囲気になった。

「……失礼いたしました。畏れ多くも国王陛下よりご紹介に預かりました、ミリュエール・フォン・エストアールと申します」

馬上から下馬したわたしは、そう自己紹介をした。
お辞儀は自分自身より上位の国王陛下や王妃等にはしなければならないけど、この場には王太子妃より立場が下の人もいる。その場合逆に失礼になるからするわけにはいかない。

わたしが目配せすると、頷いたアスター王子がわたしの隣に進み出て下馬をし、一緒に並び立つ。


「アスター・フォン・ゼイレームです。この度、わたくしたちの婚約の儀式へお集まりいただき、ありがとうございます」

まるで庶民のような砕けた口調だけれども、堅苦しい形式はやめようと言ったのは彼自身だ。格式よりも何よりも、大切なのはお互いを理解することだ、という彼の主義のために。