「そして、彼女がある限りわが国を護る誓いをしたドラゴンもご紹介いたしましょう」

国王陛下が高々と手を挙げると、周囲に風が吹き渡る。
上空からゆっくりとした速度で、ブラックドラゴンがわたしの後ろへ舞い降りた。

艶のある黒い鱗と凛々しい顔立ち。30メートル近い巨体に、さすがに見慣れないだろう国々の賓客から驚きの声が上がる。

《ふむ、面白いものだな……国という存在を背負った人間がこのように集うとは》

ブラックドラゴンは、たぶんわざとだろう。自分自身の“声”……心に直接言葉を届ける“心話”を、わたしだけでなくその場にいる人間全員に聞こえるようにオープン化していた。

確かに、この場にいるゲストは世界中から集まっただけあり、様々な言語が使われている。世界標準語とも言われるプスムラム語だけでなく、それこそ少数派の言語まで。
当然通訳はついてはいるものの、やはりリアルタイムで完璧な訳は難しい。

《この場に集う人間よ。この国を狙うならば、我が牙我が爪だけでなく、数千数万の我が同胞(はらから)も敵に回すと覚悟せよ》

そう宣言したブラックドラゴンは、その場で空気を震わせるほどの特大の咆哮(ほうこう)を放った。