そして刻限となり、愛馬に騎乗したアスター王子のお迎えがあった。
彼も本日正式な王太子となるため、普段の王族服よりランクが高い白金色の生地を使用した詰め襟の軍服姿だ。スラリとしたラインは裾を金糸で刺繍され、豪奢さが違う。
髪もしっかり整えられ、顔つきもいつもより凛々しく見える。格好良く見えて、心臓が一瞬跳ね上がったのは内緒だ。
そんな彼はなぜか、わたしを見た瞬間に目を見開いて固まった。

うん、別にドレスが似合わないとか自虐するつもりはない。自慢のお母様に似てる容姿なのだから、自分が醜いとか卑下するつもりもないし。
だから彼が何に驚いたのかわからなくて、直接問いただす事にした。

「アスター王子、おかしい点や気になる点ががあればすぐおっしゃってください。今なら改善できますので」
「……い、いや。違う。おかしいどころか……ゴニョゴニョ」

アスター王子は口元に手を当てて、そっぽを向いてしまいましたよ。ええい、まだるっこしい!

「だから、何なのですか?はっきりおっしゃってくださいよ」


再び問いただすと……
アスター王子は、ボソッとこう言ってきた。

「ミリィ……おまえが……き、綺麗すぎるんだ……」

そう告げた彼の顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。


拙くて、ストレートな言葉だった。

ここで手慣れた男性ならば、もっと飾った言葉で美辞麗句をさらっと言えるんだろう。

でも……。

ふだんから言い慣れないアスター王子からのひと言だから、わたしに心地よく響く。

彼が、ほんとうにそう思ってくれていることが解るから。

ふわっと、春風のようなあたたかさが胸からひろがる。

さえずる小鳥のように鼓動が速くなり、顔が熱を持つ。

(……やっぱり……わたし……アスター王子が好きなんだな)

不器用でこういうことには慣れない彼が、愛おしい。自然と、そんな事を感じた。

「ありがとうございます。アスター王子も普段よりは格好良く見えますよ」

まだ真っ赤な顔をしたアスター王子に、クスリと笑ってわたしがそう言っておくと。なぜか彼は不満げな顔をした。

「普段よりは…とはなんだ、オレはいつもカッコいいぞ!」
「ハーイソウデスネー」

普段通りにバカなやり取りをして、だいぶ緊張も解けた。