お母様がそんな心配をなさっていたなんて……。

「あなたがレスター殿下に婚約破棄された時に後悔したの。いくら王子殿下でも、こんなふうに軽く見られ蔑ろにされるならば、なにがあっても婚約を認めるべきではなかった…と。あなたはあんなふうに扱われるべきでない…わたくしとサルバンの自慢の娘ですもの」

そう言って、お母様はそっとわたしを抱きしめてくださった。

「あなたが傷つき不幸せになるならば、わたくしもサルバンもなにを犠牲にしても護ろうと考えているわ。アスター王子との婚約だって例外ではなかった……幸い、サルバン…お父様がアスター王子の同僚で彼の人となりは熟知していらっしゃる。アスター王子も定期的にエストアール家に通い交流してくださっていた。だから、わたくしも婚約に反対はしなかったの」

お母様からアスター王子の意外なエピソードを聞いて、驚くしかなかった。

「え…アスター王子がエストアール家に?全く聞いたことはありませんでした」
「でしょうね。彼(アスター王子)は、いつも内緒でお越しになっていらしたもの。だいたい月に1、2回ほどかしら…毎回、わたくし達に贈り物を持参してくださったの。どこでお聞きになったか、わたくしやサルバンの好きなものばかり用意してくださった…そして、なにか困ったことは無いか…なんてお訊きしてらしたわ」

アスター王子が…まさか…わたしの実家を定期的に訪問していたなんて…全く知らなかったし、びっくりした。
でも……
なんだか彼らしくて、胸が暖かくなる。

思えば、レスター王子は一度もわたしの両親と会おうともしなかった。