(なんとか終わった……?)

ブラックドラゴンの短剣を手にしたまま、油断なく周囲を見渡す。なんだろう?この、胸がざらついたような嫌な感じ。本能が最大級の警戒を告げてくるんだ。

こういう時の直感は、外れた試しがない。

「ミリュエール!さぁ、素直になるんだ。ボクの胸に遠慮なく飛び込んでおいで!!」

あれだけの事態(こと)があったにもかかわらず、全くブレずに平常運転のレスター王子。また両手を広げて突進してきたから、ひらりとかわして放っておけば木の幹を抱きしめてなにか勝手につぶやいてた。

「おお、愛しのハニー!遂に素直になったんだね。さぁ
、ボクと2人で愛の花園へ飛び立とう!!……でも、ちょっと固くなったかい?」

うん、やっぱり。アホな王子は傍目から観察するには面白い存在だ。夜闇でよく見えないからか、勘違いして抱きしめたゴツい木の幹へなんかチュッチュしてるし。

しかし、突如レスター王子が「きゃっ!?」と黄色い声を上げる。それと同時にわたしの足は反射的に地面を蹴り、猛ダッシュで走り込んだ。

「レスター王子、その木から離れてください!」

怒鳴りつけるように言葉を叩きつけ、一直線に狙うは木の幹。それが黒くなり、徐々に形を変えぐにゃりと歪む。

まだ、レスター王子の首にはアスター王子のメダリオンがあって、防御魔術が掛けられている。けれども、どれだけ保つかわからない。

それだけの強大な力を、感じた。今まで無いほどの……身体じゅうの毛穴がすべてひらき、チリチリした痛みを感じたほどに。