レスター王子の突進をひらりと交わし、彼の両手が空を切るタイミングでジャンプする。
「はぁあっ!」
狙うは、ただ一点。紅いピアスのみ。
振りかぶった短剣を思いっきり振り下ろし、勢いのままに突くけれども…やはり、呪力と瘴気が一気に増してこちらへ襲いかかって来る。でも、ブラックドラゴンの短剣も魔力と浄化の力でそれを食らう。
光と闇の力。2つの力が烈しくぶつかり合う。
わたし自身に魔力は無いし、抵抗する手段は持ち合わせてない。
でも、負けない。
どうしようもないレスター王子だとて、ゼイレームの王子だ。
この王子を含めて、すべてを護るのが騎士なんだ。
「わたしは……エストアール家の娘だ!ゼイレームの騎士だ!!よからぬ奴らには、絶対……負けない!!」
どんなつらい道でも、わたしは歩く。騎士として、王妃として。ゼイレームのすべてを護るために。
(ーー手応え、あり!)
それを感じた瞬間、なんの躊躇いもなく一歩踏み込んで短剣の切っ先を突き出した。
パリン、と澄んだ音が響いて間もなく。紅いピアスが粉々に割れ砕け散る。それと同時に真っ暗だった周りに光が戻り、いつもの宿舎への景色に戻った。