アホ王子の勘違いはともかく、彼を動かすことに成功した。

わたしは短剣を構えながら、狙いを定める。

(目標……紅のピアス。呪物は間違いなくあれだ)

幸い、ピアスは左耳にしか存在しない。左右ともに在れば同時に攻撃しなければならないけれども、ひとつだけならば集中し破壊できる。

「ブラックドラゴン、力を貸して……!」
『是。主人(マスター)の危機に我が力が役立つならば喜んで』

ブラックドラゴンの角でできた短剣から、すさまじい熱量を感じる。彼の魔力に慣れてきたわたしですら、背筋が震え身が引き締まる。ほとばしるのは、聖なる力と魔力。

すると、それらに触れた呪いの人形が次々と消滅していった。

(これは……浄化の力!?)

遠くにいるブラックドラゴンが、短剣を通じて貴重な力を解放してくれた。ならば、彼のためにも一度で仕留めなくては。

(絶対……奴らの自由になんてさせない!)

ゼイレームを裏切り、フィアーナへ着いた副王。度々こちらを攻撃してきた呪術師。不幸を食い物にする、ドン・コレッツイ。絶対に許さないし、この国を好きになどさせない。

「わたしは、ゼイレームの騎士だ!きっと護ってみせる」

わたしは騎士なんだ。だから、絶対に外さない!

レスター王子の紅いピアスから突如として赤黒い煙が湧き出し、禍々しい色に染まっていく。
おそらく、何かを察したあちからが追加で呪いを送ってきたのだろう。それでも、レスター王子はブレずにわたしへ向けて突進してきますがね。