アスター王子はまたいきなりわたしを抱きしめてきたから、反射的にひじ鉄をお見舞いしたけど。顔面にひじがめり込んでいても、彼は懲りずにわたしを抱きしめる腕に力を込めた。

「ちょ、アスター王子!いきなりなにを……」
「よくやった!」
「は?……あの、アスター王子…大丈夫ですか?色々と」

なんかアスター王子が唐突に声を張り上げているから、とうとう頭がおかしくなったかと心配になったところで、また彼は再び口を開く。

「ミリィ、おまえは今回よくやった!おかげでみんなが助かった」
「……はぁ…そうですかね……」

ここまで来たら、彼がなにが言いたいかわかってもはや諦めの心境だ。たぶん、わたしが反論したところで終わらない。好きなようにさせよう、と悟りを開いた。

「そうだ。ミリィ、おまえは頑張ったんだ」

そう言ったアスター王子が一度わたしを離すと、再びわたしの顔を覗き込む。

「おまえ自身は理想が高すぎて、騎士たる活躍には足りない……と思ってしまっているんだろう?」

悔しいけどアスター王子の指摘はまさにその通りで、少し胸に突き刺さる。胸まで出かかった反論の言葉をグッと飲み込むと、彼はフッと口もとを緩めた。

「……どんな騎士だろうと、人間だ」

ぽつり、とアスター王子がこぼしたひと言は、彼の実感を伴ったもの。今のわたしには、これ以上ない胸に響く説得力があった。

「英雄呼ばわりされているオレだとて、完璧でないことは1年見てきたおまえも知っているはずだ。今まで存在してきた伝説的な騎士だとて、すべての騎士がすべての局面で万人の誰もが認める完全な対応ができたわけじゃない。もしできたとしたら…それは人間でない、神の領域だ。人間である以上、理想的な完璧などそうそう無いんだ」