「良かったぁ」



 私は安堵のため息をもらしたけど、猫は切られた毛のところを、ジッと見ていた。



 「あ、ごめんね。君の大事な毛、少し切っちゃって」



 心なしか猫の顔が悲しそうに見えた。



 「じゃあ、卒業式が終わった後、またここに来るから。そしたら、フルート聞かせてあげるよ」



 切られたところを見ていた猫が私を見上げ、首をかしげた。



 「誰にも言ったことないんだけどね、私最近フルート習い始めたの。まだあまり上手くないけど…特別に君に聞かせてあげる」


 しーっと人差し指を立てて言うと、猫が嬉しそうな顔をした気がした。


 猫に顔を近づけると、フワッと甘い香りがした。
 

 この匂いは…そうだ。あれに似てるな。



 「君、わたあめみたいな匂いするね。じゃあ名前は『わた』だな」



 私が得意げに言うと、猫は


 「ニャア」


 と、今日一番の明るい声を出す。


 そこで私はあることを思い出した。



 「あ!そうだ!卒業式があるんだった!忘れてた!」



 私が叫ぶと猫がびっくりして飛び跳ねた。



 「じゃあね。またね、わた!」



 わたに手を振り、学校に向かって駆け出した。