黒板を消し終わって廊下に出ると、後ろから誰かに抱きつかれた。


 驚きはしない。あらかた、誰だか予想はついていた。



 「何?ミナ」



 私は後ろを確認せずに言う。



 「なんで私って分かっちゃうの!?」



 声をきいて、やっぱりミナだった、と思った。


 ミナは私に抱きついてた手を離し、私の前に回り込んできた。



 「ねえねえ、まーた綿名、日乃ちゃんのこと手伝ってたよね。本当に日乃ちゃんのこと好きなんだねー」



 ミナがニヤニヤしながら、からかい口調で言う。


 私は一瞬、ドキッとしたけど、それをかき消すためにすぐに喋る。



 「別に好きとかじゃないでしょ。私さ、ほら、よくうっかりしちゃうこと多いから。だからきっと心配されてるだけだよ」



 自分に言い聞かせるように言ったのが、ミナにはバレたらしく、「えーそうかなー?」と、少し意地の悪い笑顔で言われる。


 でもすぐに、あ、と何かを思い出したような顔になった。



「でも、たしかに、日乃ちゃんのうっかりは大分だよね。だって中学の卒業式に遅刻するくらいだもん」



ああ、そういえば、そんなこともあった。



あの日は、桜が咲き始めて間もなくて、ポカポカした暖かい春だった。