後5分……
「にこにこ弁当のおじいさん、
復帰したらしいですよ」
秋野課長が柿川係長に言った。
「今日からまた配達してくれるのね」


後4分……
デスクの上を片付ける。


後3分……
「ちょっと書庫行ってきます」
席を立った。


後2分……
ガチャッ
「毎度ー!にこにこ弁当です!」
1分早い!


「あ…」
私と有瀬さんはフロアの入り口で
鉢合わせてしまった。

「福ちゃん…」
私はすぐに目をそらして廊下へ飛び出す。


だけど、これでいいのだろうか。
毎日お弁当は届けられるのに、
ずっと気まずいままでいいの?

遠くの方でガチャンと音がして、
さっさと受け取りサインをもらった有瀬さんが
追いかけてきていると分かった。


「福ちゃん!」
私は振り返らず立ち止まる。

何か…何か言わなきゃ…

「ごめん…」

有瀬さんが足を止めて、
私を後ろから抱きしめた。

「勝手に部屋に入ったこと、
ほんとに悪かったと思ってる…
許してくれない?」