「もうルーと仲良くなったんだね。
中々触らせない子なのに」


ルーと呼ばれた子猫は、抱き上げようとしたエドウィンの手をスッとかわして、私のドレスの中に隠れた。

賢い。
ここなら、流石に皇太子も手が出せない。
一瞬顔を顰めた彼に、私は意識して意地悪く微笑んだ。

「まあ、猫ちゃんも私と同じで、高貴な方が苦手なのかしら」

独り言のように、首を傾げて、口元に指先を添えて。
ほら、完璧に『嫌な女の子』でしょう?
本人の目の前で拒絶しているようなものだもの。

「高貴というなら、君もじゃないかな?
公爵令嬢、でしょう?」

にこりと微笑んだ皇太子の笑顔が、何だか黒い。
本当に7歳か、この子?
中身30歳に負けてないんですが⁉︎


2人して何か含む笑顔を見せ合いながら、さて何を言ってやろうかと考えていた時。
足元で、猫ちゃんが身体を擦り寄せてきた。


「うひゃっ!」

くすぐったさに、令嬢らしからぬ叫び声をあげて、私はバランスを崩してしまった。

石畳の隙間に靴を引っ掛けたから、そのまま後ろに倒れると、頭を打ってしまう。
咄嗟に横の花壇に倒れようとした。
それを助けようとした皇太子が私の腕を掴み、でも子どもの非力さで一緒に倒れてしまう。

___素敵なお茶会用ドレスと礼服が、土と花まみれ。
ついでに髪もね。

隣に倒れている皇子の顔は、子供らしくびっくりしたもの。

「あはははっ!」

私は何だか無性に可笑しくなった。
令嬢らしくなく、お腹を抱えて笑ってしまう。

なんだよもう、腹の探り合いしてたのに、格好つかない。

ゲラゲラ笑う私につられて、皇子も笑い出した。

「……っくくくっ…」
「何よ、笑いたいなら思いっきり笑いなさいよ!
我慢したら楽しくないじゃない!」

私は楽しくなってしまって、心からの笑みを向けた。
___直後、失敗を悟る。

目の前の彼の顔が、みるみる真っ赤になっていったから___