「お話中失礼します、ご令嬢方。
皇太子殿下がおいでになりましたので、こちらへどうぞ」

執事のような格好の、素敵ヴォイスのおじさまが、にこやかに私たちを促した。

3人の令嬢達は、顔を輝かせて先導する執事さん?に付いて行った。

私は最初付いて行くフリをして、木の茂みがあるところでそっと道を逸れた。

会ってたまるか、が、正直な気持ち。
願わくば、他のご令嬢を気に入って欲しい。切実に!

私は更に茂みをかき分け、ドレスを引っ掛けないように前にまとめて持つと、可及的速やかにその場を去った。

出た先は、ガゼボのある小さな庭園。

花というか、ハーブが植えてあるな。
前世でいうカモミールみたいな花がいっぱいで、いい香りがする。

暫し見とれていると、花の茂みの中から真っ白くて小さな子猫が現れた。
すごく可愛い……

私はその場にしゃがみ込んで、そっと手を前に出した。

「きみ、ここの子?お母さんは居ないの?」

私が話しかけると、子猫はトコトコと近くに寄って来た。
すごく人に慣れてるから、皇宮の誰かが飼っているのかな?
私の手の匂いを嗅ぐ仕草をしてきたから動かないでいると、そっと頭を擦り付けて来た!

可愛い、可愛い!
キュンで死ねる‼︎

そっと子猫を抱え上げて、大人しくしているのを確認してから、私はガゼボに向かった。

ガセボには、長椅子にクッションがいくつか置いてあり、繊細な感じの小さな丸テーブルも横にある。
皇室のどなたかの、プライベートなお庭っぽい。

…ふふん、丁度良い隠れ家かも。
暫く猫ちゃんと遊んだら、戻ればいいか。


私は長椅子に腰掛けて膝に子猫を乗せると、そっと撫でてみた。
フワッフワ…堪らない…
今自分の顔を鏡で見たら、凄いことになってるだろうなぁと思いながら毛並みを堪能した後、猫じゃらしを見つけたので猫ちゃんと遊ぶこと四半刻くらいか。

「ルー、遊んでもらってるの?」

背後から、少年の声がした。
気配に気が付かなかった私は、ひゃっと叫んで文字通り飛び上がった。

知らない声だけど、嫌な予感がする。
振り返りたくない。

子猫を抱きしめて凍ったフリをする私の正面に、彼は回ってきた。

——極上の、キラキラ王子様スマイル。
うぇぇ、攻略対象筆頭の皇太子様だ。
眉間に縦筋が入っているだろう私を無視して、彼は私の手を取ると、指先に軽く唇を当てた。

「初めまして、マーガレット嬢。
エドウィンと申します。お見知り置きを」

7歳とは思えない、完璧な挨拶。
私は謎の対抗心を覚えて、猫ちゃんを下ろして一歩下がると、カーテシーを披露した。

「初めまして、皇太子殿下。
リズウェル公爵が娘、マーガレットと申します」