並行線の話し合いは、何日も続いた。

買ってきた本を何度調べても、やはり西のダンジョンに潜るしかないという結論に至る。

私は、ついに最終兵器を投入した。
ミクにデレていたエドウィン様の様子を私目線で話し、「もう2度とあんな目に遭いたくないからこそ、このダンジョン探索が必要なのだ」と説いた。

しかし、敵もさるもの。
エドウィン様はこの話になるのは予測済みだったようで、強い動揺は見せたもののなんとか踏みとどまって、「それでもレティが危ない目に遭うのは許可できない、他の人に行かせるように」と私を説得する。

でも私は精神に作用する魔獣や魔樹が出る危険なダンジョン探索を、中々他人にお願いする勇気は出ない。
武器や防具の質、本人の技の練度——そんなものも、精神攻撃には無力になる可能性があるからだ。


エドウィン様は強い騎士に行かせるつもりだったようだが、そこに割って入って来た人がいる。

冒険者ギルド長だ。


いつもは閉鎖されている西のダンジョンに潜れる可能性があると聞きつけ、エドウィン様を訪ねて来たのだ。


是非にと懇願され、また万一私が潜ることになった時の情報収集も考え、エドウィン様は許可を出した。
また、私の精神衛生上も、利害の一致ということで、大変よろしかった。

勿論、精神干渉系の魔獣や魔樹がいるという情報を渡したが、これは冒険者ギルドでも把握済みだった。

「私どもも、そういう魔獣やトラップを何度も経験しています。

その手の魔獣の経験のある上級から特級冒険者達でパーティーを組みますので、どうかご心配なさらず」

壮年のギルド長、グスタフさんは、ニヤリと笑って言った。
そんなに心配そうな顔してたかな?

私が思わず両手で頬を引っ張っていると、そこに居た全員に噴き出された。
ひどい。そこはスルーするとこでしょ!

暫く笑って、グスタフさんは爆弾を落とした。

「可愛らしい皇太子妃様ですな」


——エドウィン様がご機嫌になったことは、言うまでもない。





それはさておき、やはり冒険者ギルドの人達だけに任せると、私の目的が果たせるかどうか分からない。

私は、その晩こっそり皇宮を抜け出し——抜け道は、過去に把握済みだ——冒険者ギルドに向かった。

何度も尾行を確認したが、多分無い。
よし、とギルドの扉を押して、中に入った。






——さて、何故目の前に、仁王立ちの皇太子様がいらっしゃるのでしょう?


絶句していると、怒りにこめかみを引き攣らせているエドウィン様が、盛大に溜息を吐いた。
がっくりと項垂れている。

「——いや、分かってた。
絶対に来るってわかってた。

だから、もう何も言わなくていい」


私は半笑い。
読まれたことを嘆くべきか、エドウィン様の言い草に笑うべきか怒るべきか。

———いいや、きっと謝るべきだ。


「ごめんなさい……」

「謝らないでくれ!
許さなきゃならなくなるだろう‼︎」


叫ぶように放たれた、この言葉を聞いた瞬間。
もういいやと思った。

もう、私には、きっとこの人しかいない。
それを確信した。

よく分からないけと、凄く感動して動けないでいると、それをどう取ったのか、エドウィン様が優しく声をかけてきた。


「とにかく、一緒にギルド長の所に行こう」