街に出て、お目当ての絵本を仕入れて。
エドウィン様に、内容と皇后陛下との話を簡単に説明する。

ついでに、エドウィン様と商店の並ぶ通りを歩く。

そこに、仕事が丁寧で評判が良いと護衛の騎士さんが言っていた文具工房があったので、いつも助けてくれるエドウィン様にお礼を込めて、羽根ペンのセットをプレゼントした。

黒水鳥の羽根は、しなりが良く書きやすいので好きだ。
私が好きなものをあげるのも、たまにはいいだろう。

自分が稼いだお金でエドウィン様にプレゼントできて、ちょっと誇らしい気分に浸っていると、横から幸せそうな声がした。

「大切に使うよ」

ケースを愛おしそうに撫でて、エドウィン様は言った。

「私も、なにかあげたいな」

エドウィン様の言葉に、何もいらないと答えそうになって、ふと考える。
今、欲しいもの———、あった。

「そうですか?では、欲しいものがあります」

「ダメ」

あちゃ、バレてるか。

「レティが何をおねだりするか、当ててみようか。

皇家管轄の、西のダンジョンに出入りできるようにして欲しい、だろう?」


……聡すぎるのも、どうかと思う。
私が口を尖らせていると、唇をふにっと掴まれた。

「あそこは、何人も人が死んでる。
だから、出入りを皇家が管轄しているんだ。

特級冒険者も命の危険性があるダンジョンに、君を潜らせると思う?」


西のダンジョンが危険なのは、攻撃を受けるのが『精神面』だということ。

つまり、精神に介入する魔獣や魔樹がたくさんいるのだ。

あ、『魅了』と似てるなぁ。

話が逸れたが、物理的に強い魔獣や魔樹は居ないが、惑わされない強さが要る。

後は、最後にいるとされる、ドラゴンだ。
こちらは情報がない。
まだ、誰もそこまで行っていないのだ。


——反対するエドウィン様がおそらく、ううん、間違いなく正しい。
分かってる。



それでも、私は。
諦めるわけにはいかない。

あの子を、『孤独』から救わなくては。
独りになんかしない。
自分から独りになるなんて、絶対許さない。
だってミク、貴女はそんなこと、本当は望んでないでしょう?

そう、『魅了』が効かなかった私だからこそ、きっと出来るはず。

私は、決意を込めて彼の名を呼ぶ。


「ウィン」

「ダメ」

「…ウィン?」

「絶対ダメ」

「話を聞いてください」


エドウィン様の両腕を掴んで、私と眸を合わさせる。
最悪、ミクにデレてたことを引き合いに出してでも、聞いてもらう。
その覚悟で、エドウィン様の眸を見る。


やがて、諦めたように溜息をついて、彼は呟いた。

「……わかった、聞くよ。

私は、こういう時に君に勝てたためしがないよね……」

最後はぼやくように。
でも、ありがとう、聞いてくれて。

「私、『魅了』にかからなかったんです。

父や母、兄もかかっていたのに。

恐らく、精神干渉に結構強い耐性があります。

それに、私の魔法の腕はご存知でしょう?

恐らく、上級冒険者レベルはあると思うんです。

だから勝算があるんです」


暫く、考え込んでいたエドウィン様。

でも、やはり首を横に振る。


「ダメだ、私は君を失うわけにはいかない。

聖女を失っても、君を失えないんだ。

分かってくれないか……?」