いつの間にか、私も寝てしまったらしい。

長椅子には、私だけが横たわっていた。

私の上には、エドウィン様の上着がかけられていた。

久しぶりのエドウィン様の香り。
ちょっとむず痒いような気分になって、私は身体を起こした。

「レティ」

声に少し張りが戻ってる。
私は、声のした方を向いて、微笑んだ。

「ウィン、元気が出ましたか?」


お風呂に入ってさっぱりしたのだろう、
顔色も髪の色艶も少し良くなってる。


少し恥ずかしそうにしながら、頷くエドウィン様。
私は、とりあえずの危機を乗り切ったとホッとした。


「来てくれたんだね」

「ええ、アルバート様にご心配をかけてはいけないですわ。
呼びに来てくださったのですよ」

「ははっ、レティを連れて来てくれたんだから、心配かけて良かったよ」


言いながら、エドウィン様は、隣に座って良いかと聞いた。

少し端に寄って、どうぞという意思表示をすると、彼は以前より拳3つ分ほど間を空けて腰掛けた。

——もう、婚約者じゃないからね。

「元気だったみたいだね」

少し寂しそうに、エドウィン様が話しかけてきた。
私は、ニコリと笑って答える。

「ええ、仲良しのお友達と、仕事仲間達と、楽しくやっていますわ」


「私は……元気で居られなかったよ」

珍しく弱音を吐くエドウィン様。
でも、声は強くしっかりして。

私は、何が言いたいのか、計りかねる。

「そう、なのですね。
あ、ミクが居なくなったから…」
「違う‼︎分かってるよね⁉︎」

私の言葉を激しく遮って、エドウィン様は両手で頭を抱えた。


「私が望むのは、いつも、どんな時も、君なんだよ。

今回こんな面目無い事になったけど、諦めようと頑張ったけど、もうどうしても無理なんだ‼︎」

叫ぶように言って、彼は私の足元に跪く。

「ごめん、レティ。
私はどうしても、君を離してあげられない。
君が居ない世界は、私に取って生きる価値が無い。

——本当はね、あのまま無理を続けて、死んでしまいたかった。
ずっと溺れているように苦しくて、苦しくて。もう楽にしてくれと、誰か殺してくれと、何度思っただろう。

でもね。

レティが来てくれたから、私は眠れるし、食べられる。
生きる意味と価値を見つけられる。
民のことを、国のことを、友のことを考えられる。

今回、よく分かったよ。

だから、恥知らずにも、君に乞う。
私と結婚してください。

君が嫌と言っても、私は一生諦めずに追いかける。
妃として、君以外に誰も要らない。
君が結婚してくれないなら、私の血筋は繋がなくていい。


レティ、出逢ってから今までも、これからも、私が生きている限り望むのは君だけなんだ」