「じゃあ次はベールさん。どんな人がタイプですか?」
「そうですわね……やっぱり可愛らしい人が好きですわ。うちの兄さんも、妹も、お嬢さんも。皆可愛くて好きよ」
「光栄ですね、貴女に好いて貰えるなんて」
「うふふ。褒めても何も出ませんわよ?」

 頬に手を当て、小首を傾げ、ベールさんは瞳を細めた。

「我はな、アミレスみたいな人間が好きじゃ! というかアミレスが好きな訳であるからして、人間は別にそんな好きじゃないのぅ」
「ありがとね、ナトラ。私もナトラが好きよ」
「──ふむ。やっぱさっきのナシじゃ」

 ナトラはそう言うやいなや立ち上がり、とてとてと駆け寄って来て、

「好きな者とは番になるものなんじゃろう? ならば我の番になれ、アミレス。お前の銀髪に良く似合う花々のティアラを、永遠(とわ)に捧げてやろう」

 自然(みどり)の権能を使い、見た事の無い花で作られたティアラを頭に乗せてきた。
 可愛いのに、どこかイケメンに見えてしまう。どう反応したものかと固まっていると、

「こら、ナトラ。お嬢さんに迷惑をかけてはなりませんよ。私達と人間の時間の感覚は違うのだから」
「むぅ……じゃが早い者勝ちと言うじゃろ。シルフとかシュヴァルツとかに取られる前に、我が取っといた方がよくないかの?」
「それはそうだけれど、順序というものがあるわ。きちんと手順を踏んで、しっかり囲わないと駄目でしょう?」
「なるほど! 流石は姉上じゃな!!」

 何がなるほどなんだろう。竜種の感覚はやっぱりよく分からないなあ……。

「でしたらっ、わたしはアミレス様に溢れんばかりの金銀財宝を捧げます! シャンパージュ家ならその程度の事、造作もないので!!」
「じゃ、じゃあ私は歌います! アミレスちゃんの為にアミレスちゃんの為だけの歌を未来永劫歌い続けますっ!!」

 ナトラの発言に触発されたのか、メイシアとローズが身を乗り出す。
 その様子を見て、

「王女様、相変わらずのモテっぷりね……」
「姫かわいーもんね。アタシも好きだもん」
「そりゃあ私だって王女様は好きだけどさ。これはもはや異常というか、おかしいというか」

 クラリスとメアリーが頬杖をつく。
 私も二人が好きだよ。バドクラの子供も楽しみだし、色々苦労してたみたいだからメアリーにだって幸せになって欲しいもの。

「メイシアとローズの好きなタイプはどんな感じなの?」

 とりあえず進めようと、彼女達にも話を振る。
 すると二人はほぼ同時に口を開いた。

「どんなわたしでも好きでいてくれる人ですね」
「お星様みたいに眩しくて、きらきら輝く素敵な人……かな」

 彼女達らしいその答えを聞いて自然と頬が緩んだ。「いつか出逢えるといいね」と告げると、二人は揃って目を丸くして、温かい眼差しで私をじっと見つめてくる。
 二人だけではない。ハイラもベールさんもクラリスも皆が同じような目で私を見てくる。顔に何かついてるのかな……?

「クラリスさん……は、旦那様がいるんですよね。らぶらぶな新婚さんって羨ましいです」
「ま、まあそうね。王女様のおかげで新婚らしい生活も送れてるわ。……こうやって新婚である事をいじられるのは、まだ慣れないけど」
「ふふっ、それも新婚さんの特権だって前に父が言ってました」
「特権ねぇ……うちのラークもそんな感じの事言ってたわ」

 程なくしてローズがクラリスに話を振ると、ぷっ、と二人は笑い出した。

「ローズちゃん……だっけ? 姫から話は聞いてたけど、メイシアちゃんみたいに気さくなんだね。類は友を呼ぶ──姫の周りには変な貴族が集まるって事なのかなぁ」
「変な貴族……」
「わたし達、メアリードさんから変な貴族呼ばわりされてたんですか……?」
「だってそうでしょ。アタシ達みたいな貧民を同じテーブルに座らせる貴族なんて、アタシ、姫達しか知らないもん」

 私と関わるようになってマシにはなったけど、メアリーは相変わらず貴族を嫌っている。マシになったと言うか、表に出さなくなっただけだが。
 それでも私の事はもう嫌いじゃないいし、他の貴族とは違うと分かってくれている。メアリーもシアンも本当に物分りが良くて、上司として鼻が高い。

「同じテーブルに座るのに、貴族とか平民とかって関係あるんですか?」
「こういう円卓ならば尚更。席につく全ての者が平等であらねばならない……という聖書の一節に則った机ですからね。身分なんて取るに足らない些事ですよ」

 そして我が友達もまた、凝り固まった前時代の負の産物みたいな考えを持たない、聡明ないい子達であった。
 この階級社会では間違った考えなのかもしれないけど、いつかは身分差のない民主主義の世界になればなと思う。
 ……まあ。フォーロイト帝国がここまで平和で安定した国なのは、現皇帝が最恐の存在として君臨しているからであって。今のフォーロイト帝国が民主主義になった日には治安の悪い国になる事だろう。

 何せうちの貴族達はまあまあなクソばかり。
 皇帝とその側近が作り上げた政治が怖すぎる為大人しくしているが、そのストッパーがいなくなれば何をしでかすか分からない。
 皇帝という絶対的な存在がいるから何も出来ないでいるが、基本的には保守的なクソ野郎が多いのだ、フォーロイトの貴族は。
 そんな貴族達の横暴の皺寄せを喰らっていたメアリー達一般市民が、王侯貴族を心底嫌うのも無理はない。

「メアリーは好きなタイプとかあるの? 言い出しっぺだし、何かあるんでしょ?」
「えへへ〜〜、そりゃあもちろんっ! 姫、絶対内緒にしてね?」

 まさに恋バナと言った切り出しで、メアリーはふにゃりと笑った。

「……実はぁ、その。アタシ、ユーキ兄が好きで……ユーキ兄みたいなクールで物静かなんだけど、その中にある情熱みたいな? そういう人が好きなんだよねぇ」
「ユーキって私も知ってるあのユーキ?」
「それ以外にいないじゃん、あんなかっこよくて素敵なユーキ兄なんて!」
「意外だわ……貴女、ユーキが好きだったのね」
「うん。ユーキ兄って昔は髪が長くて、本当に綺麗だったの。そんなユーキ兄がさ、初めて会った時に汚くて貧相なアタシを見て『……せっかく可愛いのに泥まみれとか、無様だな』って言ってくれたの! やばくない? あんなの絶対好きになっちゃうって!!」

 果たしてそれは褒め言葉なのかしら。普通、人を褒める時に無様だな。なんて言わないわよ、うちの兄じゃあるまいし。
 でもメアリーが幸せならわざわざそれに突っ込むのも野暮というもの。
 メアリーの言う通り、コンディション最悪な時にユーキのあの顔面で可愛いとか言われたら、並の女子はコロッと落ちてしまう事だろう。

「……そっか。メアリーの恋が成就するよう、陰ながら応援してるよ」
「ありがとー姫! アタシの恋の成就のお手伝いしてくれるなんて!!」
「ちゃっかりしてるなぁ。まあ任せてよ、御守り作りなら得意だから精一杯縁結びの御守り作ってあげる」
「わーい! 姫好き〜〜! でも縁結びって何?」

 椅子を倒す勢いで立ち上がり、メアリーは私に抱きついた。

「良縁を結ぶのよ。貴女の恋が叶いますようにーって」
「なにそれ凄くいいじゃん! 流石はアタシ達の姫!! それでそれでっ、姫の好きなタイプは?」
「え?」
「なんでそんなに驚くの? そういう流れだったじゃん。あと普通にアタシも気になるもん、姫の好み」

 痛いところを突かれた私は必死に何かないかと考えて、パッと思いついたものを口にした。

「そうね……声が低くて、手が大きくて、ちょっとおっちょこちょいなところが可愛いんだけど、いざと言う時には頼れるような、いつも傍にいてくれる優しい人……とか?」

 やけに具体的な言葉の数々がスラスラと口から飛び出していた。
 皆の注目を一手に集めていた中でのこの答えっぷりに、全員が目を白黒させていた。

「……声が低くて」
「手が、大きい」

 メイシアとローズがボソリと呟く。
 そんなに衝撃的なのかしら、私の好みって。
 割と一般的だと思うけど……。

「我、竜になれば手も大きいし声も少し低くなるぞ。他は全部当てはまるし……アミレスの好みは我なのでは?!」
「ナトラ、多分そういう事じゃないですわ」

 ベールさんがナトラを優しく窘める。

「こっちのが意外だよ、姫! 姫も結構フツーの好みだったんだね。今度イリ兄に教えてあげよっと」
「……若干バドールと被るから、ちょっと冷や冷やしたわ。王女様がそんな事する人じゃないって分かってはいるけど」

 クラリスがどこかホッとしたようにため息を一つ。

「──姫様。もしいつか、貴女様が誰かと婚約を交わしたいと思う日が来たならば。その時は必ず、先んじて、私にご連絡下さいまし。私が見極めます」
「何を??」

 突然ハイラが圧をかけてきた疑問が解決しなかったものの、この後数時間、私はきっちり女子会の司会進行を務めあげた。
 ……ずっとずっと憧れていた、普通の女の子らしい時間。
 こうして大好きな皆と実現させる事が出来て──本当に、楽しかったな。