全員が棒を手に取り、そして『王様だーれだ』と定番の掛け声を口にしながら棒を引く。

「え、俺……!?」

 記念すべき一回目の王様は、レオナードだった。

「良かったな、レオナード・サー・テンディジェル。お前が記念すべき初代王様だ。さっさと役目を終えて退位しろ」
「この状況で俺にどうしろってんですか、フリードル殿下ぁ!!」

 レオナードは涙目で情けない声をあげた。
 それもその筈……何故ならこの場には、彼よりも高貴ないし偉大な立場にある者ばかり。イリオーデやアルベルトのように肝が据わった者ならまだしも、レオナードのように小心者な少年には、些か荷が重いのだ。

(いや待て落ち着くんだ俺。これは寧ろ好都合……俺は何も答えなくていいんだから!)

 しかしレオナードも成長した。
 一度深呼吸をしてから、彼はいざ命令する。

「それじゃあ、その……さ、三番の方は王女殿下の好きなところをじゅっ、十個程挙げていただきたく…………」

 地味に多い。そんな初回にしては上出来な命令を下されたのは、

「うわ、俺じゃねぇか」

 この中でもトップクラスにアミレスとの関わりがなく、他人への興味関心がかなり希薄なアンヘルだった。

「王女様の好きな所……スイーツへの造詣が深いところ、スイーツ界に新たな風を吹き込んでくれたところ、スイーツを持ち帰らせてくれるところ、スイーツを好きなだけ食べても怒らないところ、すぐに新しいスイーツを思いつき実現してくれるところ」
((全部スイーツ関連だ……))

 指折り数えアンヘルは律儀に答えていく。彼らしい回答の数々に、ミカリアとカイルは呆れと安堵が入り交じった表情になる。
 だがここで、アンヘルが彼等の予想を上回る。

「優しいところ、俺の話を真剣に聞いてくれたところ、俺を嫌わないでいてくれたところ、俺を受け入れてくれたところ、あと──笑顔が可愛いところ、だな。これでよかったか?」
「は、はい。ありがとうございます……」
「比較的楽な命令で助かったぜ、初代王様」
「いえいえ……こちらこそ……?」

 あのアンヘルが、嘘をつけないこの状況でサラッと述べたアミレスの好きなところ。それを聞いた面々は唖然となりつつも、箱に棒を戻して二回戦に移る。
 同じ手順を踏み、二代目王様はアルベルトになった。

(うーん、複数人選んだら駄目なんて言われてないよな……)
「──五番と七番と九番の人に聞きたいんだけど、主君に殴られたら興奮します? ちょっと統計調査がしたいんだ」
「おい、ルティ。複数人指名するのは駄目だろう」
「でもさ、騎士君。駄目なんて言われてないよ? というか王様が絶対なんでしょう、このゲームは」
「……私の名はイリオーデだと何度言えば分かる」

 二回戦にして酷い命令が下された。
 これには該当者達──カイルとロアクリードとシュヴァルツも天を仰ぐ。

「五番、カイル。ドMではないので興奮しませーん」
「……七番、ロアクリード。彼女に殴られた事がないから一概に無いとも言いきれないけど、多分興奮はしないと思う」
「九番。オレサマ、ぶっちゃけアイツ相手なら何でもいいから興奮すると思うわァ」
「そうなんだ。ありがとうございます、三人共。とりあえずシュヴァルツ君は抹殺対象……っと」

 何でだよ。というシュヴァルツのツッコミも軽くスルーして、早くも三回戦に移る。
 三代目王様はクロノ。考えるのが面倒くさかったのか、「一番の奴、あの娘の物真似して」と命令し、マクベスタがその被害に遭った。
 しかしマクベスタは、シルフには及ばずともこの中でトップクラスにアミレスと過ごして来た年数が長い。それに彼の演技力が加わり、想像以上のクオリティで、

「……───お前達如きが、(わたくし)に歯向かうと? 誰が、いつ、その穢らわしい目で(わたくし)を直視する事を許可したかしら」

 氷の血筋(フォーロイト)全開のアミレスの物真似を披露した。
 思ったより似ててなんだか悔しいシルフやミカリアと、マクベスタの演技力に感心するカイルやアルベルト。
 そんな中でも、ゲームはどんどん進む。
 四代目王様はロアクリード。被害者は八番のカイルと十一番のレオナード。
 命令内容は、「アミレスさんから貰って嬉しかったものとかある?」という質問だった。これに二人は、「感謝の言葉と笑顔」「誕生日プレゼントに貰った夜空色のインクかなあ……」と即答した。

 五代目王様はアンヘル。被害者は一番〜五番の、ミカリア、シュヴァルツ、フリードル、ロアクリード、クロノ。
 命令内容は──「王女様に求婚すると仮定して、ちょっとそこで一回やってみろ」という、無茶振りそのものだった。
 この命令を聞き、何とか地獄を回避した者達は、自分がこれに当たらなかった事に心底安堵していた。
 そして、嫌々ではあるものの……被害者達は立て続けに求婚(プロポーズ)を演じる。

「───どうか、僕との運命を受け入れて下さい」

 真剣な表情で人類最強の聖人が先陣を切る。

「───……お前の為なら世界だって何だってくれてやる。だから未来永劫オレサマだけを愛してくれ」
「───お前が最も幸福だと感じる瞬間を、僕と共に迎えてくれないか」
「───こんな私でよければ、お嫁さんに来てくれますか? ……とか」

 ミカリアに続くようにシュヴァルツ達も演技を終え、両手で顔を隠して項垂れる。どうやら精神的にキツかったらしい。
 そして、最後はあの男。

「───求婚とかなんとか言われても僕は知らないし、どうでもいい。でも娘に死なれたらナトラが悲しむし……僕の番になって人間やめろ」

 クロノの滅茶苦茶な求婚(プロポーズ)に、シュヴァルツは「うわァ……」と本気で引いている様子。
 多くの傷を残した命令は、「おー、おもしれー」というアンヘルの拍手で終了した。

 既に疲れが見え始める王様ゲームだが、当然まだまだ続く。六代目、七代目、八代目…………と、どんどん即位と退位を繰り返し、十二人全員が一度は王様を経験した。
 前提として、『アミレスに関する命令/質問』でなければならなかったので、途中からマウントや牽制が飛び交う凄絶な空間となっていた事だろう。
 そろそろ宴もたけなわという事で、次で最後にしようと全員が同意した。
 何故なら全員、精神的に疲労困憊だったからである。王様も被害者もダメージを受ける恐ろしいゲーム……それが、王様ゲームだった。

 そして迎えた最終戦。二十三代目王様はカイルだった。
 最後と言う事もあり、カイルはにんまりと笑みを作って命令する。

「──よし。最後だし全員いこうぜ。一番から十一番まで順に、アミレスの事が好きか嫌いか言っていこう」

 その命令は、このタイミングで下すにはあまりにも結果の分かりきったものであった。
 好きか嫌いかで言えば────好き(・・)
 ノータイムで好きだと答えた者もいれば、少し間を置いて答えた者もいた。だが、やはり全員の答えは一致する。

 種族年齢問わず参加者全員の精神をすり減らした男子会は幕を閉じた。
 シュヴァルツとシルフの手によってそれぞれ元いた場所へと帰され、散り散りになった男達は奇跡的にも同じ言葉を胸に抱く。

 ……──もう二度と、王様(あの)ゲームだけはやらない!! と。