その日、真昼間から城の一室は冷え切っていた。
 部屋には十人近く人がいるのに。それはもう、外に広がる雪景色かのように冷たく、美しい光景が広がる。

(……これ、多分全員アミレス関連で拉致られたんだろうなぁ。何されんだよ、怖すぎんだろ)

 カイルは顔色を悪くした。
 シルフによってその場に集められた男達は、揃ってアミレスと関わりのある者であり、彼等はシルフより『いいからちょっと来い』と有無を言わさず連行されたのである。
 その者達とは、カイル、マクベスタ、フリードル、レオナード、アルベルト、イリオーデ、ロアクリード、ミカリア、アンヘル、クロノ。
 これにこの集まりの主催者であるシルフとシュヴァルツが加わった、計十二名もの美形達がこの部屋に集められた。
 参加させる人間の拉致はシルフが担当し、城の一室をケイリオルから貸りるのはシュヴァルツが担当し、彼等は無理やりこの集まりを成立させた。

「……さて。よくぞ集まってくれたな、人間達」

 大きな円卓を囲むように置かれた十二脚の椅子。それぞれ自由に席につくなか、此度の主催者たるシルフが立ち上がり口火を切った。
 その言葉に人間達は、『無理やり連れて来られたんだが』と言いたげに眉を顰めた。

「お前達とは一度話しておきたかったんだ。郷に入っては郷に従え……だったかな、人間界にはこういう集いがあるんだろう?」

 シルフはニヤリと笑い宣言する。

「──男子会(・・・)を始めようじゃないか」

 そう言うやいなや、彼は指を弾く。するとその部屋には強力な結界が展開され、円卓には星空を溶かしたような液体が並々注がれたティーカップが人数分現れた。

「だっ……」
「「「「男子会?!」」」」

 カイルが驚愕を思わず漏らすと、それに続くようにイリオーデ、アルベルト、ロアクリード、ミカリアは言葉を同じくした。
 一旦落ち着こうと、訝しむように恐る恐る星空の紅茶を飲む人間達を横目に、

「そうだよ、これは男子会。お前達への尋問の機会と思ってくれて構わない。まあ楽にしなよ」

 シルフがめちゃくちゃな事を言ってのけると、

(オレの知ってる男子会じゃないな……)
(まさかの男子会で大草原不可避ですな)
(もしかしてこの前のお茶会で何か粗相が?!)
(仕事中に拉致されたかと思えば、男子会だと? 一体何を考えているんだ精霊は……これは、あいつの監督責任ではなかろうか)

 若者達は三者三様の反応を見せた。

「なあ、精霊さん。これって男子会なんだろ、じゃあ俺今から女になるから帰っていいか?」
「駄目に決まってるだろ、吸血鬼。疑惑があるからわざわざ連れて来たんだぞ」
「えー……めんど……そもそもなんの疑惑だよ……」

 アンヘルは肩を落とし、星空の紅茶に口をつけた。思ってたより甘くて美味しいそれに、「お、案外アリだな……」と少しは男子会に前向きになったらしい。

「そこの吸血鬼の言う通りだ。人間達はともかくどうして僕まで呼ばれたんだ?」
「そりゃァクロノ、お前も疑惑があるからな」
「はぁ? だからなんの疑惑なんだよ穀潰し。さっさと戻ってナトラと一緒に仕事したいんだけど」

 侍女服のまま足を組み、クロノはシュヴァルツに凄んだ。魔王と黒の竜の睨み合いが始まるかに思えたが、意外にもそうはならず。
 何も知らない者達の視線を集めながら、魔王と精霊王は顔を見合わせて小さく頷き、代表してシルフが話を続ける。

「大なり小なり、ボクのアミィに変な感情抱いてやがる疑惑だよ。今日はそれを確かめる為にお前等を呼び出したんだ」
「ふむ……よく分からんが、シルフは俺達に聞きたい事があるからこうして集めて、外に話が漏れないように結界まで張ったのか」
「そうだ。ボクはお前達に聞きたい事があってね……とりあえず絶対に聞き出したいから、ボクは策を講じたという訳だ」

 嫌な予感がする。──誰もがそう思った瞬間、その答え合わせをするかのように、円卓の中心に大量の棒が刺さった箱が出現した。
 その箱目掛け、全員の視線が一点に集中する。

「アミィから前に聞いたよ。人間界には、王様(・・)ゲーム(・・・)ってゲームがあるらしいね」

 ──王様ゲーム? とカイル以外の全員が首を傾げる。

「完全運任せの王政擬似体験……参加者全員が同時に棒を引き、王様の棒を引いた者が王となり他の参加者に好きなように命令出来る。だがその命令先は棒に振られた番号での指定だから、誰に命令を下せるかは命令実行のその時まで分からない。実に愉快なゲームだと思ってね」
「…………そのような不遜な遊びをよく皇帝陛下の御座す城にてやろうと思ったな」
「人間の事情とかボクには関係無い。ボクはただ、くだらない尋問を少しでも楽しもうと思っただけだ。あと、うん。アミィが『皆と仲良くしてね』って言ってきたから。丁度いいと思ったんだよ」

 シルフが気だるげなため息を零す。その言葉へのフリードルの返事もまた、呆れを孕んだため息だった。

「試せば分かると思うが、この空間ではもう簡単な魔法しか使えないようになっている。仮に魔眼やら特殊な能力やら持っていようが、発動不可。運もまた、この空間にいる間は参加者全員の運の平均値に調整されるから、オレサマ達人外も含め公平な運試しが出来るぜ?」

 ため息の連鎖を見兼ねて、話を進めんとシュヴァルツがこの王様ゲームについて補足すると、

「なんか嫌〜〜な予感がするんだけど……もしかしてさ、この結界ってなんかヤバい効果とかある? それか、既に全員飲んでるこの何故か美味い紅茶になんかあったり……?」
「……本当に気に食わないなお前は。どうせ後で話す事だし、今話すけど──その紅茶を飲んだら、一定時間絶対に嘘をつけなくなるから。この後の王様ゲームが楽しみだね」

 察しのいいカイルが何かに気づき、シルフは愉悦に顔を歪めた。
 ただの美味しい紅茶かと思いきやとんでもない効果つきだった。後出しの恐ろしい効果に、誰もが絶句する。

「精霊様……! 何故そのような危険な真似を……?!」
「うわマジか。ミカリアと違って俺は嘘をつくつもりもないが、面倒な事になったなー」
「これは不味いなぁ……自分が命令されない事を願うしかないのかぁ……私、嘘つけないと結構不味い気がするんだけど、どうしようか」

 円卓の各席から、焦りを帯びた声が漏れ出し始めた。

「…………嘘がつけない状態で、尋問されるだなんて。しかも内容がアミレス関連だと? ……オレにどうしろと?」
「嘘つけないとなると、俺何も言えんのやが? 無理ゲーすぎて萎える……」
(──というかこの人選の中に俺がいるって事は、俺の恋心もバレてるって事? 王女殿下には気づかれてないよね? 気づかれてたら、俺流石に恥ずか死ぬよ??)

 まさかの条件を突きつけられ、男達は絶望の淵にて不安に駆られる。

(別に、王女殿下の事で嘘をつくような事柄はないから平気だな)
(何をそんなに焦ってるんだろう。だって聞かれるのは主君の事だよ。何か聞かれたら不味いような事が……?)
(そもそもなんで僕はこの場にいるんだよ。僕、関係無くない? 早くナトラの所に帰りたいんだけど)

 だが中にはあまりダメージを受けていない者もいる。
 そして、

「……はぁ。何でもいいから早く始めて早く終わらせてくれ。まだ仕事が残っているんだ」

 フリードルに至っては堂々とした姿で進行を促している。嘘をつけなくて困るような事が無いとでも言いたげなその態度に、誰かが思わず感嘆の息を漏らした。
 そんなフリードルの要望に答えるかのように、早速王様ゲームは開幕した。