国際交流舞踏会一日目。
 カイル曰く『割とガチで修羅場すぎて、行くとこまで行ったらもうスレ立てていいレベルだぜあれは』との事だったが、一応これといったトラブルも無く終われたので……もしかしたら私は運が良かったのかもしれない。
 まあ確かに──アンヘルがスイーツ狂いになっていたり、ミカリアがめちゃくちゃ不機嫌だったり、リードさんと数年振りに再会したら教皇とか言われてしかもwith白の竜だとかもう訳わかんない事ばっかりだったけども!

 アミレスのお陰で皇帝との対面もやり過ごせたし、二日目以降は舞踏会への参加はどちらでもいいとケイリオルさんに言われたので、面倒だからと私は迷わず拒否。
 何せ、あの皇帝が一応毎晩舞踏会に顔を出すとの事なので……舞踏会に参加して顔を合わせる度にアミレスに迷惑をかける訳にもいかないし、それならもう、最初から参加しなければいいじゃないか! という結論に落ち着いた。

 お留守番だった面々的には、私が舞踏会に行かない事がとても嬉しいようで。二日目は朝から晩まで皆で東宮で過ごしていた。
 いや、お前主催国の王女じゃん。国際交流舞踏会期間中忙しくないのかよ?
 そんな風に思われがちだが、私は面白いぐらい暇なのだ。
 魔物の行進(イースター)だとか、国際交流舞踏会の準備だとかでそれなりに頑張っていた事を認められ、ケイリオルさんの配慮で国際交流舞踏会の間は自由に過ごしてくれと言われたのである。
 皇帝達やうちの貴族達は、お客様方をもてなす為にそれはもう多忙なので、私だけこんなにのんびりしてていいものかと罪悪感が凄いのだけど。

 そんな私にも重大な仕事が舞い降りた。
 その仕事──いえ、イベントの為に二日目は東宮で過ごしつつもその手配でてんやわんや。
 なので、横で頬杖をついてじっとこちらを眺めていたり、『オレサマ暇なんだけどォ〜〜』と頭に顎乗せたりしてくる魔王をしっしっ、と手で追い払いつつ私はせっせと招待状作りに励んでいた。
 昼前には仕事を終えたシルフ達が来てくれたので、ここぞとばかりに暇だと騒ぐシュヴァルツの相手を頼むと、定期的に裏庭から凄まじい爆発音が聞こえてくるようになった。

 爆発音と魔王笑いをBGMに招待状を次々と拵え、昼過ぎにはうちの侍女達に頼んで秘密裏(・・・)に招待状を各所にお届け。
 急なお誘いにも関わらず、なんとその日の夜には招待状を出した相手の八割から快諾の旨が返信された。
 私兵団の皆にも、全体的にボロボロのシュヴァルツに頼んで招待状を出したのだが、『貴族だらけのお茶会に出ろとか……殿下は俺達に死ねと?』って言われたと、帰ってきたシュヴァルツから半笑いで伝えられた。
 シャンパージュ伯爵夫妻やランディグランジュ侯爵にも招待状を出したのだけど、普通に忙しいらしくお断りされてしまった。まあ、当然か。

 国際交流舞踏会三日目の朝。
 ナトラにも手伝ってもらい、何も無い雪原に美しい薔薇と椿の庭園を作成。
 椿の花はこの世界には無かったのだけど、雪景色に合う花と言えば椿だ。それしかあるまい(※諸説あり)。
 ナトラにこんな感じの花を咲かせて欲しいのと絵を描いて説明すると、『ふむ、低木の常緑樹かの? 葉は互生で……花弁は…………』と聞き馴染みの無い単語をぶつぶつと呟きながら、何度か自然(みどり)の権能で椿の生成に挑戦してくれた。

 五回目とかの挑戦でついに一致率九十九パーセントとかの椿が完成し、コツを掴んだナトラは勢いよく会場予定の雪原を椿の園へと変えてみせたのだ。
 ただ、椿だけじゃ物足りないと。ナトラはついでに薔薇もたくさん出した。何故椿から薔薇も生えているのか私には分からないが……自然を司る緑の竜(ナトラ)だからこそ出来た事なのだろう。
 勿論、鼻を赤くしていたナトラを抱き締めていっぱい頭を撫でて褒めてあげた。

 皆の協力あって何とか間に合った、国際交流舞踏会四日目の昼。
 私はこのお茶会会場で、招待客達が来るのを今か今かと待ち侘びていた。
 なんと今日は、シルフも師匠もシュヴァルツもナトラもクロノもセツもみーんな参加。いつもは留守番ばかりなので、皆も是非! と誘ったらだいたい二つ返事で参加表明をしてくれた。
 寒がりのクロノは雪原でのお茶会という事で難色を示していたが、ナトラと一緒に『行かないと後悔すると思うけどなぁー?』『相変わらず寒さによわよわじゃのう』と煽ったところ……私の頬をむにむにと引っ張りながら『随分と偉くなったな、娘』とキレ気味で参加する事を伝えて来た。
 なので、そんないつもの面子で軽く紅茶を嗜みつつ、存在しているだけで暖炉代わりになってしまう師匠で暖を取り、招待客達の到着を待っていたのだ。

「おーっす、俺が一番乗りかね? そりゃ僥倖。早速で悪いけどお前にプレゼントがあるんだ」

 アルベルトに案内されながら現れたカイルは、会場に着くやいなやコートの内ポケットに手を突っ込み、ある物を取り出した。

「それって……」
「じゃじゃーん。はいこれどーぞ、使い方は分かるよな?」

 手渡されたものはスマートフォンのようなもの。サベイランスちゃんをそのまま小型化したような感じの、薄くて小さい板だった。
 サベイランスちゃん同様この世に存在する筈のない物体を、皆が何それとばかりに覗き込む。

「スマホを期待してそうなところ残念なんだけどな、それ電話と世界地図(マップ)しか使えないんよ」
「マップ?」
「そう、世界地図(マップ)。今いる場所にピン刺せるんだけど、そしたら次からは好きなだけそこにワープ出来るようになる。瞬間転移を誰でも使える感じな。いやあ、大変だったぜ〜〜大陸全土をスキャンするの」
「……大陸全土? この大陸、多分パンゲア大陸並に大きいと思うんだけど」
「サベイランスちゃんの改良を重ね、長年の地道なスキャン作業の甲斐もあり、ついに大陸全土のマップ埋めが出来ちゃいました〜☆」
「出来ちゃいました〜☆じゃないのよ! あんたまたそうやって文明破壊を……ッ!!」

 ウインクからの舌ペロ。そして極めつけは閉じた目の横にピース。そんなムカつく顔を見て、思わず言葉が崩れてしまった。
 スマートフォンみたいな見た目の癖に世界を揺るがしてしまいそうなそれを握り締め、勢いよく立ち上がった。
 そんな私を、カイルはどうどう。と落ち着かせようとする。

「まあまあ安心したまえ、親友。通話は俺が持ってる双子機としか出来ないし、何より言語設定はジャパニーズ! 俺等以外には使える訳がないんだわ!」
「マジで何してんのよ親友さん……」
「いやほら。毎度チートオブチートタクシーするのも無理があるからさ、それならもう、お前に移動手段をあげようかなって。あと黒電話だと音でびっくりしちゃうんだよ、うちの部下が」
「なんたる理由…………あ、これ着メロとか設定出来るの?」
「着メロて。なんか設定したい音でもあるん?」
「友人に歌姫がいるもので」
「でもそれ録音機能ねーしな。アプデ考えとくか……アプデまでは着メロ無しで頼むぜ」
「はーい」

 青いラインの入った本体に、青いカバー。カイルの方は本体は全く同じ見た目だが、カバーが赤い。なんとも分かりやすい区別方法である。