「ハハッ、ご愁傷様。精霊だけじゃなくて悪魔にまで好かれるとか……もうまともな人生なんて歩めねェよ、お前」

 オレサマは、アミレスに死んで欲しくない。
 このオレサマが自らアイツの為に何かしたいと思っている。
 アミレスの事を考えると深手を負ったかのように心臓が苦しい。
 アイツが関わると何もかも思い通りにいかないのに、それすらも心地よいと感じてしまう。
 もっと笑って欲しい。オレサマだけにその笑顔を向けろ。お前に関わる全て、他の誰にも譲りたくない。
 あの女の全てを、オレサマのものにしたい。
 そんな、悪魔らしい本能が暴れ出す。理性的であろうと思っていたのに、数千年目にしてオレサマも結局はただの魔物だって事が証明されてしまった。

 ……──悪魔(オレサマ)欲望(エサ)を与えた責任は大きいぞ、アミレス。

「アイツが堕ちてくるのを待つんじゃなくて、オレサマが、アイツをここまで堕としてやればいいのか」

 そうすれば、オレサマは独りにならなくて済む。
 ずっとずっと、面白おかしいアイツと一緒にいられる。
 精霊共の執着がなんだ。オレサマは悪魔(オレサマ)らしく、欲望のままに全てを手に入れたらいいんだ。

「あと四日────その日が楽しみだなァ、アミレス」

 六千六百六十六の時を刻み、オレサマは反逆の晩鐘を鳴らす。
 早く、早く。
 その時が来る事を、鐘の音が境界に鳴り響いたあの日から指折り数えて待ち続けていた。
 オレサマの真名(なまえ)を明かした時、アイツがどんな顔をするか…………それが、楽しみで仕方無い。


♢♢


「あっ、お兄様!」
「ローズ、そっちの様子はどうだい?」
「見ての通りです。私も、拡声魔導具を使いつつ休みを挟みながら歌っているのですけど……ほとんど無意味なんじゃってぐらい、アミレスちゃんの勢いが凄くて」
「凄いな、王女殿下は。どうしてあんなに強いんだろう……」
「そりゃあアミレスちゃんですから!」
「なんでローズが誇らしげなのさ」

 アミレスちゃんを歌でサポートしていると、遅ればせながらお兄様がやって来た。勿論、私達の帝都生活の護衛を務める紅獅子騎士団の面々と一緒に。
 お兄様がこうしてここに来れたって事は、ちゃんと皇太子殿下から許可をいただいて来たんだろう。
 流石はお兄様! アミレスちゃんは勿論凄いけど、私のお兄様だって凄いんだから!

 お兄様と一緒に、今もなお魔物達と戦っているアミレスちゃんをふと見つめる。
 たくさんの鮮血を浴びて、それでも一際輝き冷笑をたたえる姿はまさに氷の血筋(フォーロイト)と呼ぶべき姿。
 普段の物語のお姫様のような幻想的な姿もいいけれど、このついつい触れたくなる氷像の大作のような──触れたその瞬間にこちらまで凍てついてしまいそうな、そんな危うさのある彼女の空気がとても良かった。
 有り体に言って、彼女に見蕩れていた。

「あれ。あの人達……イリオーデさんと同じ服を着てるけど、王女殿下の私兵って噂の人達なのかな」

 お兄様の視線は、次に魔物達と戦う集団へと向けられていた。
 あら、あの方々いつの間に。
 アミレスちゃんの為に歌って、アミレスちゃんにずっと見蕩れていたから全然気づかなかったわ。

「あれはアミレスの私兵団じゃ。あやつ直々に雇ったとかでな……イリオーデも元はそこの一人じゃったが、なんか知らぬ間にアミレスの騎士になっておったわい」

 ずっと静かにアミレスちゃんを見守っていた不思議な雰囲気の可愛い女の子、ナトラさん。
 あのアミレスちゃんに頼りにされる程の子だから、多分、見た目通りの普通の女の子じゃあなくて……その喋り方から察するに、長命種の亜人か何かなのかなと個人的に思っている。
 そんなナトラさんが、お兄様の疑問に答えるように口を開いたのだ。