(アミィだけじゃない。確か、前にカイルも未来がどうのって言ってた。二人揃って世界から何らかの干渉を受けているが……それが、未来を知る者の共通点って事なのか?)

 思い出されるは、カイルとの初対面。
 胡散臭い笑みと軽い口調の見知らぬ男。そんな子供が突如として口にした、『未来予知』という言葉。
 これに気づいた時。シルフの脳内には、(いかづち)が走っていた。

「……シルフ? もしかして聞こえてなかったのかしら。どうしよう、どう言葉にすれば伝えられるの……?」

 思考を激しく巡らせていたシルフは、アミレスからの質問を忘れてしまった。それ故にあまりにも返事が遅いものだから、アミレスは不安を覚えてしまったらしい。
 その声に引っ張られるように、シルフの意識は彼女へと向けられる。

「っ! あぁ、ごめん……ちょっと考え事してて。ちゃんとアミィの声は聞こえてたよ、安心して」
「そうなの? なら良かった」
「それで、ええと。未来が変わるかどうか……だよね」

 改めてその事について考えを巡らせ、シルフは「あくまでボク個人の意見にすぎないけど」と前置きして口を切った。

「その物事の重要度合いにもよると思うけれど、基本的には既に決められた筋書きを逸れる事は無い……と思う。多少の誤差や変化はあれども、それこそ魔物の行進(イースター)規模の出来事であればそうそう無くなったりはしない筈だよ」
「未来とか過去とかは俺達の専門外なんで、姫さんの望むような答えが出せなくて……すんません」

 シルフに続かんとエンヴィーが申し訳なさそうに眉尻を下げると、

「そうなんだ……難しい事を聞いたのにちゃんと考えて答えてくれてありがとう」

 その表情を見て、アミレスは深く頭を下げた。

(決まった未来はそうそう変わらない……なら、早まる事はあるかもしれないけれど、ミシェルちゃんが進む道次第で何が起きるかは分かる。ゲーム本編で起きたイベントを──……色んな死亡フラグを叩き折る事だって出来る!)

 つい先程まで不安や恐怖に染まっていた寒色の瞳は、今や強い覚悟と使命感で上塗りされていた。
 未来を見据える瞳が、凛と鮮やかに輝く。
 自分の幸せが何か分からない彼女にとって、一番そう(・・)だと思えるものは大切な人達の幸せだった。
 故に、アミレスはハッピーエンドの為に奔走する。
 死ななければいい。
 死以外の全てを許容し、彼女はその身を犠牲にして運命に抗う。この先の未来に待ち受ける数々の死亡フラグをぶち壊して、彼女なりの幸せを掴み取る為に。

(──王女殿下。例え何が待ち受けようとも、私は貴女様に付いて行きます)

 ゆっくりと上げられたアミレスのその顔を見て、イリオーデは改めて誓いを胸に抱く。
 自ら困難に立ち向かおうとするただ一人の主の征く道を切り開き、そしてその大願を成就させるべく……騎士は、二度の誓いを糧として王女の剣となるのだ。