煌びやかなパーティーは幕を下ろし、招待客達はそれぞれの帰路についた。
 メイシアは別れの際にこっそり、「また今度、お話を聞かせてくださいね?」とアミレスに伝えた。それにアミレスは眉尻を下げて「えぇ、分かったわ」と答えて、会場を後にした。
 アミレスと共に帰っていたレオナードとローズニカだったが……エンヴィーが一度精霊界に戻った事で不在になり、馬車の中はどうにも気になった事を確認出来る空気ではなかったので、モヤモヤとした気持ちのまま邸でアミレスの馬車を降りる事に。

 東宮に戻った面々は、各々着替えを済ませて談話室に再集合した。
 そこには何やら愉快な空気を感じ取ったシュヴァルツや、暇だからと首を突っ込みに来たナトラとクロノ、更にセツまで東宮の面々が大集合だった。
 全ての業務を、侍女達に押し付けて。
 軽く紅茶を味わいつつ、エンヴィーの到着を待つ。すると二十分程経った頃に、空間がぐにゃりと歪んでそこからシルフが数ヶ月ぶりに現れた。
 その後ろには、エンヴィーともう一体(ヒトリ)──終の最上位精霊のフィンがいて。
 久々に人間界に来たシルフと、初めて見る精霊の姿にアミレスが目を丸くしていると、

「久しぶりだねアミィ〜〜っ! ごめんよ、精霊界での仕事が忙しくて全然こっちに来れなくて。ボクに会いたかったよね? ボクも会いたかったよ!!」
「わっ、ちょっと急に抱き着かないでよ、危ないじゃない。でも私も会いたかったよシルフ」

 シルフはアミレスを抱き締めて、アミレスはそれを受け入れて。お互いに久々の友達を堪能していた。

「……あれは本当に王なのですか? 我々の知るあの方とまるで違う…………」
「こっちではいつもああですよ、あのヒト。あと、こっちではシルフさんって呼ばないと怒られますよ」
「シルフサン……?」

 長い時間を共にして来たフィンをも驚愕させる精霊王(シルフ)の変貌っぷりに、エンヴィーは肩を竦めて呆れたようにため息をついていた。
 精霊の愛し子(エストレラ)の前ではこんなにもデレデレとしているのか。とフィンは心底驚愕していた。

(精霊さん達って久しぶりに会う時いっつも抱き締めてくるけど、そういう文化なのかな)

 会う度に熱烈に愛情表現をするシルフにも慣れてきたのか、アミレスは冷静に状況を分析する。その時、ギョッとした表情でシルフの事を凝視していたフィンと目が合って。

「ねぇ、シルフ。あのヒト……知らない精霊さんだけど、どなたなの?」
「え? ああ、そうだ紹介する為に連れて来たんだった……って、おい何だその顔は」

 フィンの事を尋ねられると、シルフは後ろ髪を引かれる思いでアミレスから離れて後ろを振り向く。
 その際心底困惑する表情でシルフを見つめていたフィンと目が合ったらしく、シルフは遺憾だとばかりに眉を顰めつつ、気を取り直さんと咳払いを一つ。

「こいつはボクの部下のフィンだよ。丁度よかったから、アミィに前もって紹介しておこうと思ってね」
「お初にお目にかかります、姫君。俺はシルフサンにお仕えしてます、フィンという者です。こうして貴女にお会い出来て光栄です」

 恭しく頭を垂れてフィンが挨拶すると、

「初めまして、アミレスです……いつもシルフと師匠にはお世話になっております」

 慌ててアミレスも立ち上がり、ぺこりと一礼した。

「さっきエンヴィーが変な行動に出ただろう? その事について説明する為に、発案者のフィンを連れて来たんだ」
「変な行動って、私が周りから精霊士だって思われるようになったやつだよね。あれってシルフ達の陰謀だったの?」
「陰謀扱いはやめて欲しいなー……ボク達はただ、君を守りたくてこうしただけだし」

 陰謀説を唱えるアミレスに、思わずエンヴィーとシュヴァルツから笑いが零れた。特にシュヴァルツなんて、「ぶはっ! 精霊の陰謀って!」と大笑いしている。
 それを隣に立つナトラが、「騒がしいぞ、黙らんか」と小突いて黙らせ、話は再開した。