「……──お前等っていつもそうだよな。被害者ぶれば何でも何とかなるとでも思ってんの? 世の中舐めすぎだろ。泣いて許されるのは赤ん坊までなんだよ。勘違いすんなクソが」

 プツンと俺の中で何かが切れた音がした。それと同時に、思い出された嫌悪が堰を切ったように溢れ出す。

「えっ? か、カイルさま……?」
「勝手に勘違いして思い込んで、その結果自分の思い通りの結果にならなかったら『こっちの気持ちも考えてよ!』とか『騙したの!?』って騒いでさぁ……俺がいつ、どこでお前等の相手をするって言った? お前等に興味あるって言った? 言ってねぇよな? 俺は当然の主張をしたまでなのに、何で俺が責められないといけないんだ?」

 霧のかかった記憶の森が徐々に晴れてゆく。
 思い出されるのは、群れてギャーギャーと騒ぐ女共の耳障りな声。
 告白について真剣に考えろと偉そうに言ってくる女共に、真剣に『お前に興味無い』と告げると決まって何故か俺が責められた。俺は何も悪くない。真剣に考えろと言われたから真剣に考えて、興味無いと言った。
 それなのに何故、俺が叩かれないといけないんだ。本当は、心底気持ち悪いって言いたいところをぐっと我慢して興味無いって伝えてやったのに。
 なんで毎回……被害者の俺が悪者扱いされなきゃならなかったんだよ。

 他にも色々と、思い出したくないものを思い出した。
 家の中では四六時中気持ち悪い声が響き渡っていた。何度換気しても、何度消臭しても決して消える事の無い噎せ返る程の性の臭い。
 砂糖に群がる虫のように、甘い蜜をいくらでも与えてくれるうちの女共に群がる男達。ソイツ等は母や姉のお気に入りになるべく、俺に取り入ってきた。
 俺が好きだから、とゲーム機や電子機器、漫画全巻とかグッズの山を賄賂として貢いできた。どれも確かに欲しいものだったけれど、あんなクソ女共に求愛するような男達から貰う賄賂なんて、一瞬たりとも触れたくなかった。
 それなのに、男達は相変わらず俺に取り入ろうとしていた。どれだけ俺が悪態をつこうとも、母と姉が俺の事を愛して(・・・)いたから。

 求められるがままに性欲(アイ)を振り撒く母と姉が、唯一自発的に愛を与えようとする相手が、俺だったから。
 男達は俺に羨望の眼差しを向け、そのおこぼれに預かろうとする。
 アイツ等には分かんねぇんだろうな。実の母と実の姉に、小さい頃からこの顔と体だけを愛されて来た俺の気持ちなんて。
 だから羨ましいなんて言えるんだ。だからこんな地獄が天国だなんて言えるんだ。

 ──そうだ。俺は、あの日々の何もかもが嫌だった。
 俺はただ俺らしく生きたかっただけなのに。結局裏切られ、俺という存在を踏み躙られ、毎度の如く悪として後ろ指を指されていた。
 だから、その原因とも言える女共が。
 俺の尊厳も、意思も、初恋も、全てを踏み躙り利用しようとした女共が。

「俺は……──お前等みたいな雌の顔した女が世界で一番大ッ嫌いなんだよ!!!!」

 感情が抑えられない。それは間違いなく、『俺』の感情がカイルの感情を上回った瞬間だった。

「どうせお前も俺の顔と体目当てなんだろ? お前等が欲しいのは俺というイケメン(アクセサリー)傍に置く(手に入れる)優越感だ。そこに俺の意思なんて介入の余地すらねぇ……いつ思い出しても、本当に自己中心的で胸糞悪い話だよな」

 誰も、俺の意思なんて考えてなかった。
 俺を恋人にした事による周囲からの羨望とそれによる優越感に浸り、あわよくば抱かれ(愛され)たいという魂胆が見え見え。
 厄介な事にその未来が女共の中では決まっているようで、思い通りにならなかったらすぐこちらを悪者に仕立て上げ、被害者面で泣き喚く。
 告白を断れば、『勇気出して告白したのに、こっちの気持ち考えてよ!』とか女共は言うけどよ、じゃあお前等は俺の気持ち考えた事あんのかよ? ねぇだろ?
 女なんて嫌いだって何回も言ってたのに、それでも『私が女嫌いを克服させてあげる』とか見当違いの上から目線で近寄ってきて……挙句の果てに、必要無いって突き放すと女共はすぐ俺を悪者に仕立て上げた。

 もう、どうしたって俺が悪くなるんだ。
 アイツ等が勝手に盛り上がって、勝手に玉砕しただけなのに。別に期待させるような態度も取ってなければ、女嫌いと公言していたのに。
 それでも女共は──、俺の顔と体(ブランド力)に執着した。
 イケメン天才外科医だとか呼ばれていた元父と、街を歩けばスカウトされる歳の割に美人な母。そんな二人のいい所だけを受け継いでそれはもう目を引く顔になってしまった。
 長身の母に似たのか背はそれなりに伸びて、昔父に色々習わされてたからか体もそれなり鍛えられていた。
 自分で言うのもなんだが、俺は頭も良かった。頭がいい事以外は何一つとして利点を感じなかった人生だったけどな。