あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜今すぐ帝国に行きてぇ。

 かれこれ数ヶ月、俺はずっとそう思い続けていた。
 兄貴が昏睡状態から回復した事もあり、俺が王太子になる未来は潰された。兄貴の回復を知った国民達は喜び、見込みは無いとすら噂されていた状態から見事復活した兄貴への支持率は以前の比ではない。
 これまでのいじめの腹いせに異母兄達の悪行の噂を街に流してやったからか、異母兄達の国民からの評判はそりゃもうさぁ〜〜いあく。元々カス程しか無かったもんが完全に地に落ちてった。
 街を歩けばひそひそと陰口を叩かれて嗤われる。かといって、城にいても使用人達からも軽蔑され嫌厭される。

 権力にものを言わせて当たり散らそうとしても、もはや今の異母兄達にそのような権力はなく、下手に暴れると奇跡の王太子として返り咲いた兄貴が異母兄達を処分するいい名分となる事だろう。
 馬鹿な異母兄達も流石にその程度の事を考える頭はあるらしく、数ヶ月近くずっと自室に引きこもっている。そんなのでも一応王族なので、世話をさせられる使用人達がとても可哀想ではあるが……俺としては清々してる。

 だってアイツ等には散々いじめられて来たからな。なんなら、俺が味わってきた痛みや苦しみの分だけ、お前等も苦しめてやろうかとすら考えたぐらいだ。
 復讐してもしなくてもいいなら、どう考えても復讐した方がスッキリするしね。
 なので俺は、喜んで二人の元を訪ねた。どうせ兄貴に引き留められてるから帝国にも行けねぇし、暇潰しに異母兄達の元を訪れては寄り添うように振る舞い、そしてたくさん慰めてやった。
 若干の鬱に陥る異母兄達相手に、俺は何一つとして酷い言葉など告げてない。俺は終始、正論だけを口にしていた。だが俺の慰めも虚しく、異母兄達は加速度的に鬱を酷くしていった。
 残念ながら俺は心のお医者さんじゃない。治し方とか知らんし、なんか俺に依存しつつある男共の相手をするのもそろそろ面倒になってきたので、それ以降は一切異母兄達の元を訪れなくなった。

 その後の異母兄達の様子を使用人から聞いたのだが、ベッドの上や部屋の隅で何かをぶつぶつと呟き、たまに縋るような声で虚空に向かって俺の名前を呼んでるらしい。
 くっそ気色悪ぃんだけど、マジで。
 それを聞いてからは益々異母兄達の元は訪れまいと強く決意した。

 クソ親父に関しては、兄貴を暗殺しようとした事が母さんにバレて事実上の離婚状態。美人な母さんに本気で睨まれて絶望したような顔してた。まあ、自業自得なんだけどな。
 更に、未だに母さんにお熱(笑)な事が側妃に知られてそっちからも大目玉を食らったらしい。
 なんでも、母さんに相手されない悲しみをその女で埋めてたんだが、その時『お前しかいない』『あの女はダメだ、男を立てるという事を知らん』とか母さんを下げるような発言をしていたらしいのだ。
 そんな事言っときながら結局は母さんのが大事だったんだから、そりゃあ側妃からすれば憤慨もの。なのでクソ親父は側妃からもしこたま責められて精神を病み、絶賛引きこもりときた。

 いやぁ、クズ親子揃って精神崩壊寸前の引きこもりとは! 世間に出ても人様の迷惑にしかならない、不利益と不愉快を振りまく存在には実にお似合いの結末だと俺も思うよ!!

 ……そこまではよかった。実に爽快なスカッと復讐劇だったんだ。
 クソ親父が国王の責務を全う出来る精神状態じゃなくなり急遽兄貴の即位式と戴冠式を執り行う事になったので、兄貴の手伝いやら式典の準備やらで俺まで駆り出されてるのだ。
 忙しいったらありゃしない。俺にしては珍しく、かれこれ数ヶ月も帝国に遊びに行ってない程だ。だからマジで、切実に暇が欲しい。
 帝国に遊びに行ってマクベスタとか我が友アミレスに会いたい。あと雑談しつつ美味いお菓子を食べたい。東宮で出てくる茶菓子、どれもこれも美味いんだよな……。

 そんな事を考えていると、やはり少しは休まなければやってられないような気分になった。その為……何とか昼寝の権利をもぎ取るやいなや、寝室に瞬間転移して即座にベッドイン。俺は瞬く間にスヤァと眠りについた。
 やはり日頃の疲れが溜まっていたのだろう。
 別に鍛えていない訳では無いが、気分的に俺は運動が好きではない。だってあんなもの、なまじ人並み以上に出来てしまったら最後、周りから無駄に注目されるし女共は騒ぐしで利点が欠片もねぇじゃん。
 俺は帰宅部がいいっつってんのに、やれサッカー部に入れだのやれ陸上しろだの。お前の為を思ってとか善人ぶって言うけど結局はお前の自分勝手じゃん。って何回心の中で舌打ちした事か。