それが、いつの日か三人の少年少女が約束した事だから。

『───二人がこの国を世界で一番平和で素敵な国にするなら、私は侍女としてそのお手伝いを頑張るね!』
『ふっ、侍女に何が出来るんだか』
『出来るもん! というか、これまでも結構エリドルの事手伝ってきたよね!? 三人で頑張って来たよね! ねっ?』
『なんのことやら』
『あーっ! またそうやって自分に都合の悪い事は忘れたふりする!』

 侍女服を着た少女がぷんぷんと怒りながら、憎まれ口を叩く少年に食ってかかる。少年はそれを軽くあしらった。
 それをニコニコと眺めるもう一人の少年は、この光景が大好きだった。大好きな彼と大好きな彼女との何気ない平和な日々。今はもう、決して見る事の叶わない遠き夢の景色。

『ねぇ、あなたからもこの頑固者に何か言ってよ!』
『こいつの言う事なんて聞かなくてもいいぞ』

 二人が同時にこちらを向いて、もう名乗る日は来ない少年の名を呼ぶ。

『──カラオル!』
『──カラオル』

 カラオルと呼ばれた少年は、ヘラヘラとした締りの無い顔で口を開いた。

(あの時(わたし)は、何と言ったんだったか───……)

 かけがえのない思い出なのに、ケイリオルには思い出せない。その名(カラオル)を捨てた今の彼(ケイリオル)に、それを思い出す事は出来ないのだ。

「ケイリオル卿、よく父上から許可をいただけましたね。狩猟大会の件は聞いてましたが、まさかその他の祭りまでとは」
「ええ、それはもう頑張りましたよ。なので是非、フリードル皇太子殿下も祭りを楽しんで下さいね」
「……僕は皇太子ですよ? そのような余裕はありません」
「皇太子だからこそ、ですよ。皇帝になれば確実にそのような余裕が無くなりますので、まだ辛うじて余裕のあるうちに……そうですね、王女殿下と祭りを見て回るなどしてみてはいかがですか?」
「妹と、ですか。それは……………………検討の余地がありますね」
(言ったのは(わたし)ですけど、検討の余地があるんですね)

 ケイリオルの口車に乗せられ、アミレスと共に祭りを見て回る事を検討するフリードル。その脳内では、祭りを二人で見て回った場合の会話や空気などの妄想劇場(シミュレーション)が繰り広げられていた。
 それを視て、ケイリオルは思わず頬を緩めた。
 誰かを好きになるその時まで感情が凍結されている氷の血筋(フォーロイト)の人間らしく、人形のようだったフリードルが……この通りアミレスへの愛憎を思い出した事により人間らしくなりつつある様が、ケイリオルにとっても喜ばしいものだったのだ。

(一度好きになれば、その人へと激しく執着するこの血筋らしい変貌っぷりだなぁ。いやぁ、フリードルがアミレスへの愛を思い出してくれてよかった)

 その様子はまさにエリドルと同じであった。こと愛する者の話となると途端に目の色が変わる姿なんて、本当に瓜二つで。
 在りし日のエリドルの姿をフリードルに重ね、ケイリオルは言葉にならない気持ちを抱く。

(……だからこそ、彼女を殺そうだなんて考えないで欲しいんだけどな。貴方までエリドルのように、愛した者を失い涙して壊れてしまう姿を、(わたし)は見たくないんだが)

 僅かに開かれた窓から吹き込む夏のそよ風に、少し色素の抜けた金色の毛先が揺れる。ふわふわと膨らんで小さくも波打つ彼の金髪は、アミレスの銀色の長髪を彷彿とさせた。

「ねぇ、フリードル皇太子殿下。もしも……貴方達が普通の家族のようになれる日が来たら、貴方はどんな事がしたいですか?」

 ケイリオルがおもむろに問いかける。フリードルはその問いに小首を傾げつつ、考え込んで。