「──ベール。というのはどうだろうか。君の純白の髪から連想したのだけど」
「……そうですわね、中々に良いではありませんか。これからはベールと名乗る事にしましょう」
「気に入っていただけたようで何よりだ」

 ベールという名を彼女がそれなりに気に入ってくれたようで、私は深く胸を撫で下ろした。
 そして。白の竜改めベールの手を引き、私達は水底神殿を後にした。二人で箒に乗り、ジスガランドに向かう途中。ベールは百年の間に様変わりした世界に興味津々なようだった。
 ジスガランドに戻ると……表向きには地方の教会巡回という名目だった私が、数百年前に流行していた衣装を身に纏う美女を連れ帰ったものだから、大聖堂はまさに大騒ぎ。
 その騒ぎを鎮めるべく、ベールに少し失礼を働いてもいいかと許可を取った。
 するとベールが、「私は狭量ではございませんもの、少しなら別に構いませんわ」と返事をしたので、「ありがとう、恩に着るよ」と告げ騒ぐ者達に向け私は堂々と宣言した。

「聞け、信徒達よ。ここに御座す方は我等が神の友と言い伝えられるかの白の竜であらせられる! あらぬ罪を着せられ、忌まわしき異教徒の男に封印されていた彼女を私が救ったのだ。尊き白の竜はその恩返しにと、私に力を貸す事を約束してくれた。つまり彼女は──……今この時よりロアクリード=ラソル=リューテーシーの右腕となり、同時に我等がリンデア教の賓客となるのだ! 皆、この御方への礼節を弁えるよう努めよ!!」

 嘘偽りだらけのこの演説に、信徒達は「ロアクリード猊下万歳───!!」「白の竜様───!!」と大歓喜。この噂はカセドラル中に瞬く間に広まる事となり、尊き白の竜が聖地に舞い降りた日を祝う、降臨祭なる祭りを後日行う事が決まってしまった。

「ふふっ、神が私達の友だなんて。人間達の思い込みの言い伝えというものは本当に面白いですわね」
「……あんまり、そういう事は言わないで貰えると助かるなぁ。ここ、一応宗教国家だし」
「あら。ごめんあそばせ」

 ベールは彫像かのように、美しく微笑む。
 だけど、どうしてだろうか。目の前のこの美しい竜の微笑みよりも、私の人生の道標となったあの少女の笑顔の方が、ずっと眩く記憶に残る。

「さて。ベールの協力を得られた事だし、私もそろそろ動くかな」
「何か、大事をなさるおつもりなのかしら?」
「そうだね。ちょっと──……この宗教を乗っ取ろうかなって」

 人類最強の聖人、ミカリア・ディア・ラ・セイレーンに対抗する為に。
 私は、このリンデア教(ジスガランド)教皇(トップ)となる。

「──それは、また。とても面白そうですわね。私も協力してさしあげますわ。だって、そういう約束ですもの」
「そう言って貰えると助かるよ、ベール。私一人じゃ少し大変だっただろうからね」

 とりあえず教皇になって、それから──ああ、そうだ。今年の終わりにはアレがある。何だ、とても丁度いいじゃないか。

「ベール。今年の終わり頃に、緑の竜に会いに行かせてあげよう。だがすまない、それまでは私の側にいてくれ」
「……仕方無いですわね。今年の終わりならばきっとすぐでしょうし、我慢しますわ」
「ありがとう、君の寛容な心に敬意を表するよ」

 ベールの約束も取り付けた。これで、きっと問題は無い筈だ。私はリンデア教の教皇となり、あの男を超える。そして彼女の幸せを支え、見守ろう。
 また、色んな国の話もしてあげたいな。あの時よりもずっと、()は強くなったんだよって自慢したいな。さよならも言えなかったから、次会う時はきっちり挨拶もしたいな。本当の私の名前も、君に伝えたいな。
 ああ、だからこそ。今年の終わりが待ち遠しい。
 ……───国際交流舞踏会、とっても楽しみだなぁ。