「あ! アミレスの関係者も殺してはならぬぞ? アミレスは身内に激甘じゃからのぅ。赤の他人ならいざ知らず、身内が死んだらアミレスが悲しむ事間違いなしじゃ。我はあやつが悲しむ事を望まぬ……じゃから、あやつの関係者も殺さんでやってくれぬか?」
「関係者……そこの魔人化した連中の事?」
「そうさな。あと、他にも結構おるのじゃが……それはまた追って我が教えるのじゃ!」
「分かった。間違えたら困るし、それまでは人間を殺さないでおこう」

 にこやかに話す内容じゃない。前言撤回、やっぱりこのヒト達、悠久の時を生きる純血の竜種だわ。

「うむ、ならばよいのじゃ! それさえ守ってくれるならば、我はもう言う事はないからの」
「そう……分かった、これだけは守るよ」
「アミレスー! 聞いておったじゃろう、兄上はもう暴れないと誓ってくれた! 安心してよいぞ!」

 ナトラが私に向けて大きく手を振ってくる。それに小さく手を振り返したところ、黒の竜と目が合った。黒の竜は、やたらと湿度の高い視線を向けてくる。
 どうやらナトラに懐かれている私にヤキモチを妬いているようだ。シスコン怖い。
 金縛りにあったかのように、黒の竜から目を逸らす事が出来ず困っていた時。そんな私の目元を、黒い手が覆ったのだ。

「そんなに黒の竜ばかり見るな。妬いてしまいそうだ」
「えっとぉ……マクベスタだよね、何してるのこれは?」
「お前の目を無理やりこちらに向ける事も考えなかった訳ではないが、こっちの方が手っ取り早くて」
「そうなんだ。で、何でこんな事してるの? 何も見えないんだけど」
「見せないようにしてるからな」
「そっかあ」

 この手はどうやらマクベスタの手で、多分、彼は私が黒の竜に睨まれている事を察してこうしているのだろう。だとしても説明が雑だ。もう少し詳しく話して欲しいわ。
 しかし、うん。さっきから近くないかしら? 背後……それもすぐに体が触れてしまいそうな距離に、マクベスタの気配を感じるわ。マクベスタって、カイルみたいにこんなに距離感おかしな人だったっけ?
 それになんだろう、この両肩に感じるフサフサなもの……突然マクベスタの背中に生えたあの謎の黒い羽かな。あれ本当に何なのだろうか。

「マクベスタ王子、王女殿下に触れすぎです。王女殿下のお顔に跡がついてしまうではないですか」
「……跡か。アミレスの顔に傷が残るのは嫌だな」
「では、疾くその手を退けて下さいまし」
「退かすから、そう急かすな」

 そうしてマクベスタの手が退かされる。急に視界が明るくなったので、少し目を細めつつもゆっくりと目を開くと、目の前には相変わらず顔が燃えてるイリオーデが立っていた。
 顔の炎熱くないのかな……。

「王女殿下、お顔をよく見せて下さい。跡が残っているかどうか確認したいので」
「ああはい。どうぞ」
「では、失礼します」

 ずい、と近づいてくるイリオーデの炎上フェイス。かなり近くにあるのに、何故か全く熱を感じない。そう言えば、さっき黒の竜と戦ってる時もイリオーデが出したらしい青炎に囲まれたけど、全然熱くなかったわ。
 この炎は、もしかしたらそういうものなのかもしれない。