僕の愛した弟達。人間の真似をするようで腹立たしいけれど……いつかの日に彼等が望んでいたように、手厚く葬ってあげたい。
 人間共に、二体の命も尊厳も何一つとしてくれてやるつもりはない。むざむざと弟達を死なせてしまった兄として、僕は僕に出来る事を尽さなければならないから。
 墓石には、二体の好きな花を手向けよう。緑と白と毎日のように会いに行ったら、きっと二体は喜ぶだろう。それで二体が好きだった食べ物やおもちゃを贈ろう。
 そしたらきっと……──二体共、寂しくないよね。

 世界が出来た後に樹から産み落とされた僕達は、死んだらこの世界に還る。それがどんなものなのか、僕は知らないけれど……いつも喧嘩ばかりだった二体には静寂なんて似合わないから。
 賑やかに、元気に。死んだ後もいつもの様に二体が過ごせるようにするね。それがきっと、兄貴(にいちゃん)に出来る残り僅かな償いだから。
 そう、思っていたのに。白までこんな所に戻ってきてしまった。人間の悪意や殺意が渦巻く地獄の果てのような戦場。
 僕達の愛した人間達なんてもう誰一人としていない。ここは、醜穢で卑劣な人間共が僕達の終わりを懇願するような場所だ。
 そんな場所に、何で戻って来たんだ。頼むから早くここから離れてくれ……!

『兄さん。もう、一万年もいい子で在り続けたんですから──……今日ぐらい、我儘を許してください』
『なに、言って……』
『確かに兄さんは長兄ですけど、同時に私だって長姉です。なので、私にだって弟達や兄さんを心配する権利がありますわ!』

 白はえっへん! と、緑の真似をするかのように、豊満な胸を張ってにこりと笑った。それは……こんな場所には似つかわしくない、穏やかな微笑みだった。

『だから、私にも……兄さんと一緒に赤と青の最期を見届けさせてください』

 だがそれも束の間。胸が張り裂けそうな程切なげな表情で、白は懇願してきた。
 ──それから、十五年。
 僕達四体は人間共と戦い続けた。その戦いが終わったのは、赤と青がその命を燃やし尽くした時だった。災害となった二体は(つい)に消滅した。
 二体の血も肉も鱗も全てが光となって消えていく。一万年前に見た、赤と青に輝くあの光のように……二色の光は戦場に舞った。

 ……───じゃあな、兄貴! 姉貴も! 俺達は一足先に逝っとくから!! 緑の事頼んだぜ!
 ……───兄ちゃん、姉ちゃん。またね。緑ちゃんと元気にね。

 その光が消える直前。最期に二体の声が聞こえた気がした。それは白も同じだったようで、もう何年も二体の咆哮しか聞いて来なかった僕達は、本当の別れというものに涙を禁じえなかった。

『……おやすみ、赤、青。疲れただろう、苦しかっただろう。どうか、安らかに眠ってくれ』

 二体の笑った顔が目蓋の裏に何度も映る。
 赤と青が死に、人間共は何を勘違いしたのか……勢いづいて僕達をも討伐しようとした。いくら人間共が姑息で卑劣であろうとも、僕達がそう何度も後れを取る訳がない。
 だから、どれだけ人間共が総力をあげようと取るに足らない雑兵に過ぎないと思っていた。実際あの呪いなどを除くと、おおよそはそうだった。
 ただ、ここで僕達にとっても予想外の出来事が起きた。

『人類の平和の為に、死んで』

 もう何百万もの人間を殺し、いつこの戦いが終わるのかと辟易していた僕達の前にあの子供が現れた。
 白の人間体を彷彿とさせる白い髪に、まるで僕達の真似をしているかのような黄色の瞳。この戦場にいるどの人間よりも小さく、幼い子供。
 人間の癖に、神々の気配や恩恵を濃く纏うその子供は……たった一人で僕達の前に立ち、そして──。

『何だ、あの、力……!!』
『そんな、私達が……たった一人の人の子に攻撃を許すなんて……』

 他の人間共を下がらせて、子供は僕達と戦っていた。僕達の攻撃という攻撃は子供の張った結界に阻まれ、どういう訳か、僕達の耐性なども関係無いとばかりに子供の攻撃はこちらに直撃する。
 このままでは、下手をすれば僕達も無事では済まない。その事に気づいた僕と白は出方を窺っていた。すると、あの子供は見知らぬ魔法──いや、権能に(・・・)等しい何か(・・・・・)を使用した。