「ここまでくれば、鈍感なお前も分かるだろう? オレ達はお前の為にこの命を使いたい。だからオレ達の身が危ないだとか……そんな事は気にしないで、オレ達の事も巻き込んで欲しいんだ。お前がキングなら、オレ達はルークかナイト辺りだろうか。そんな風に、オレ達をお前を守り戦うお前の駒にしてくれよ」

 あまりにもめちゃくちゃな発言に言葉を失っていると、

「──まあ、そういう細かい事はもぉどーでもいいじゃん。今は黒の竜をどうにかしようって話でしょー?」

 かき氷を食べるシュヴァルツが、この重苦しい空気と共に話題を変えた。
 その言葉に従うようにマクベスタは元いた場所へと腰を下ろした。それを確認してから、シュヴァルツは続ける。

「黒の竜は強いよ。竜種は人類が総力を挙げて初めて討伐出来るもの……おねぇちゃん達がどれだけ命を懸けようと、アレには勝てない。アイツは、生きる災害そのものだからね」

 情けない事に、今のぼくにも勝てる自信があまり無いからね。とシュヴァルツは肩を竦めた。

「だけどおねぇちゃんは黒の竜をどうにかしたいんだね? 人類への憎悪と怨嗟を抱くあの竜は間違いなく暴れるだろう。下手したらこの国諸共心中する事になる。それでもお前(きみ)は──あの災害へと立ち向かうと言うのか?」

 かき氷を食べ終わり、シュヴァルツはその器を机に置いた。
 そして、どこかで見た覚えがあるような……こちらの心すらも見透かされそうな鋭い視線を向けて来た。

「えぇ。もう、決めたから」
「そっか。ぼくは大した事は出来ないけど……簡単な後方支援でもしておくよ。おねぇちゃんはどうせ、被害を極力出さないように〜〜って考えそうだし」
「よく分かったわね……」
「かれこれ二年近く一緒にいたからねぇ」

 シュヴァルツまで、黒の竜との戦いに前向きだった。
 飛び起きるように立ち上がり、シュヴァルツは背伸びをして「あと十分弱ってところか」と呟く。

「帝都の中で相手するよりかは、帝都の外の方がまだいいよね?」
「被害が抑えられるならその方がいいわ」
「おっけーい。じゃあ行くよ、ナトラ」
「む、我か?」

 ナトラの肩に、シュヴァルツがポンッと手を置く。
 するとナトラはぽかんとした顔で首を傾げた。

「黒の竜の狙いはナトラだろうからね。ナトラが帝都の外にいなければ意味が無いだろ」
「兄上の狙いが我じゃと? 何故だ……?」
「お前と同じように、黒の竜も生き別れの弟妹に会いたかったんじゃね?」
「そう、だと……よいのじゃが」

 二人は軽く話しながら、瞬間転移で姿を消した。
 だが程なくしてシュヴァルツが戻って来て、私達四人も同様に瞬間転移させられた。転移先は帝都から少し離れた平原。
 そこではナトラが空を見上げて立っていた。

「ナトラ、どうしたの?」
「……兄上の気配がするのじゃ。それは徐々に大きくなっておる。本当に、黒の兄上がこちらに向かっているようでな」

 翡翠色のツインテールと侍女服を風に預け、複雑な面持ちで遠くを見つめている。

「とりあえず、まずは話し合いで解決出来ないか試してみるね。お兄さんと戦うなんて辛いだろうし、もしもの時の為にあなたはシュヴァルツと安全な所にいてね」
「…………すまん。お前に二度も、竜の前に立たせてしまう事になってしまった。本当にすまない」
「いいわよ、これぐらい。寧ろ竜種相手でも立ってられるようになれば、うちのお父様なんてへっちゃらでしょうしね!」

 少しでもナトラが気に病まなくて済むよう、私はつとめて明るく言ってのけた。
 するとナトラは私の両手をぎゅっと掴み、蜂蜜のように綺麗な黄金の瞳でこちらを見上げた。

「──本当に、お前の命が危ぶまれた時。例え兄上相手だとしても……我はお前を守る。そう、お前と約束したからな」

 それだけ言って、ナトラはシュヴァルツの元に向かった。
 緊張する鼓動を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。
 ナトラの手前、ああは言ったけれど……正直な話、竜と対峙した時の恐怖なんて何度体験しても慣れる事なんてないだろう。
 怖い。あの時、瀕死の緑の竜(ナトラ)と同じ空間に立っただけで息が出来なくなったのに、黒の竜と対峙するなんて、本当に可能なのか。って……。
 自分の気持ちに嘘をつくのは得意な筈なのに、どうしてこんなにも恐怖を捨てられないのか。やっぱり、感情なんてもの……無い方が幸せなんじゃないのかな。
 駄目だ。不安や恐怖から、ネガティブな考えにばかり偏ってしまう。