それから少しして、結婚式が始まった。
 バドールが緊張した面持ちでクラリスの登場を待つ。やがて教会の扉が開かれて、保護者代表のディオのエスコートで、クラリスはバージンロードを踏み締めた。動きがぎこちなくて……こちらもまた、緊張しているのがよく分かる。
 ヴェール越しに見えるクラリスがとても綺麗で、バドールも完全に見蕩れているようだった。ディオも席につき、二人が神父の前で並ぶと、ついに神父がよくある言葉を述べる。

「健やかなるときも、病めるときも。晴れ渡る日も、雨の降りしきる日も。その手を決して離す事無く、敬愛の限りを尽くし、親愛の契りを交わし、これから先の長い道のりを手を取り合い共に歩む事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「誓います」

 バドールとクラリスがほぼ同時に誓いの言葉を口にする。

「では。新郎新婦は神への宣誓として、誓いの口付けを」

 神父の進行に従い、バドールがクラリスの顔にかかったヴェールを捲り、二人は誓いのキスをした。
 ほんの一瞬の事なのに……離れてから恥ずかしそうにはにかみ合う二人を見ていて、何だかこっちまで気恥ずかしくなる。
 その後結婚指輪の交換などが行われ、結婚式は無事終了した。

「うぅっ、クラねぇ、ずびっ……おめでとぉっ!」
「すっごく……ぐすっ……綺麗だよ、クラ姉! バド兄っ、クラ姉をちゃんと幸せにしなきゃっ、許さないから!!」
「ふだりどもじあわぜになっでぇぇぇ……っ!!」
「三人共泣きすぎだぞ。そんなに泣いては、二人を祝えないだろう」
「「「シャルにぃだって泣いてんじゃん!!」」」

 終わる頃にはメアリーとシアンとジェジが号泣していて、同じく嬉しそうに涙を流すシャルが三人を慰めていた。

「スン……ッ、ぐす……」
「あれれー? 今日はユーキも大人しいと思ったけど、もしかして泣いてる? やっぱユーキでもクラ姉達の晴れ舞台では泣いちゃうんだ! 分かるよ、オレもさっきから涙止まんねーもん!」
「うるせぇこのバカ」
「ごふっ、なんつー純粋な暴力……っ!」
「……別にいいだろ、泣いたって。クラ姉達の結婚式なんだから」

 ユーキもたまに鼻をすするような仕草をしていて、それに気づいたエリニティが彼をからかっては、思い切りお尻を蹴られて四つん這いで悶絶していた。

「おいバドール。これからは俺達よりも自分の家庭ってモンを優先しろよな。お前はもうひとつの家族を守る立場なんだからよ」
「子育てとかをする日がいつか来ると思うけど、困った時はいつでも頼ってくれていいからね。例え少し離れても、俺達が家族(なかま)である事には変わりないんだから」
「……おめでとう、二人共。どうか幸せに」

 ディオとラークとイリオーデがバドールとクラリスに色々と言葉をかける。

「えぇ。絶対幸せになってやるわよ。バドールと一緒にね」
「ああそうだな。一緒に幸せになろう、クラリス。皆にも幸せのおすそ分けが出来るよう頑張るよ」
「余計な世話だっつの!」

 ははははは! と皆の笑い声が重なり合う。
 私達は少し離れた所から、私兵団の面々が涙ながらに笑い合う様子を微笑ましく眺めていた。

 お色直しなどしてから披露宴会場に移動し、シルフと師匠とシュヴァルツとセツと合流する。
 ティーパーティー会場のような屋外の披露宴会場。高砂のバドールとクラリスの前には、なんとこの日の為に作ったというバドールの力作のウェディングケーキ。クラリスはその力作を見て、あまりの力の入りように一周回って吹き出していた。

 その後、豪華なフルコースを食べて……まだ号泣するメアリーとシアンからのスピーチを聞いてクラリスまで貰い泣きして、ディオとエリニティからのスピーチでバドールまで泣いて。
 でもそれは、悲しい涙じゃなくて、嬉しくて幸せな涙だった。
 愛と幸福に満ちた、この世の何よりも美しい涙。これまで彼等が歩んで来た日々の全てが詰まった、思い出の涙だったのだ。