「マクベスタも、その……とっても似合ってるわ」

 話を逸らそうと、私は更に続ける。

「編み込みって言うの? そのヘアアレンジも素敵だわ。耳飾りもよく似合ってるし、服も淡い色合いで綺麗。本当にカッコイイよ、マクベスタ!」

 やっぱり、こうして見ると彼は王子そのものだ。立ち居振る舞いといい見た目といい。女の子の理想を一つずつ編みあげて完成させたような、理想の王子様のような人。
 ここに百人女の子がいたならば、間違いなく九十人はマクベスタとの結婚などを夢見るであろう、眩しさである。

「……そっ、そうか。それは良かった。アミレスの気に召したようで何よりだ」

 マクベスタが柔らかく目元を綻ばせ、ホッとしたように肩を撫で下ろした。

「実はこの髪型、カイルがしてくれたものなんだ。もののついでに頼んだら、本当にやってくれてな。あいつはやっぱり凄いよ……何でも出来て、本当に凄い奴だ。憎らしい程にな」
「へぇ、彼が。でも彼、今日は用事あるから結婚式は無理って言ってたのに」
「忙しい中、間を縫ってわざわざ来てくれたんだ。そして軽いセットと化粧だけしてすぐ飛んで帰ったよ」
「わあ、本当に忙しいのね、あいつ……」

 マクベスタの魅力を更に上げるようなヘアアレンジだったから、まさかとは思ったが……本当にカイルが絡んでいた。
 多分喜んでヘアアレンジしに来て、満足したから大人しく帰ったんだろうな。自分の才能の使い方を良く心得ているじゃないか、カイルめ。

「あっ、そうだ! ねぇマクベスタ。写真撮りましょ、写真!」
「写真……と言うと、あの一瞬で絵にするあの魔導具の事か」
「バドールとクラリスの思い出を残してあげたくて、実は持って来ていたの。後で皆で撮ると思うけど……せっかくおめかししてるんだから、二人でも撮りましょうよ」

 カイル作の大容量ハンドバッグからおもむろに魔導具のカメラを取り出し、マクベスタも誘ってみる。
 カイルから誕生日プレゼントにこれを貰ってからというものの、人に見られないよう気をつけつつ、皆の写真を撮ってきた。
 そうしていると、皆もこのカメラの存在を知り、ファンタジー世界らしく誰もがその技術に驚いていた。
 そんなかなり希少なカメラをわざわざ外に持ち出すなんて真似、普段ならしないのだが……今回は特別だ。だってバドールとクラリスの結婚式だもの!

「これ自撮り難しいのよね……マクベスタ、ちょっと屈んでもらってもいい?」
「っえ、あっ……う、うん。分かった」

 マクベスタの腕を引っ張り、体を密着させる。このカメラ、自撮りそのものが難しい上に写る範囲が中々にシビアなので、複数人で写真を撮ろうとすると、こうしてくっつかないと駄目なのだ。
 カシャッ、という音が鳴る。
 程なくして撮られた写真がカメラから出てきたのだが──、

「ふふっ、ブレブレじゃないの」
「上手く撮れなかったんだな……なあ、アミレス。お互いに撮り合った方がいいんじゃないか?」
「そうね……どうせなら一緒に撮りたかったんだけどなぁ、仕方無いか。私には映える自撮りなんて撮れっこなかったみたい」

 二人で肩をくっつけ合い、ブレて肝心の服がほとんど見えない写真を覗き込んでは、肩を窄める。すると、マクベスタがひょいとカメラを取ってはこちらに向けて、

「ほら、撮るぞ」

 カシャッ、とさっそく写真を撮った。
 半端な写真を残す事はアミレスへの失礼に当たる。だから可能な限りちゃんとした顔で写らないと。慌てて笑顔を作り、ついでに顔の横でピースも作ってみる。
 出て来た写真に視線を落とし、マクベスタが柔らかく笑った。もしかして半目で写ったりしちゃった? と私が不安になる間も、マクベスタは楽しげに写真を見つめるだけで。