「王女殿下だ!」
「お姫様こんにちはー!」
「わー! 王女様ーー!」
「きゃー!!」

 私達に気づいた人達が手を振って私を呼ぶ。この計画を経て、この街の人達は野蛮王女の噂を忘れた……──いや。アミレス・ヘル・フォーロイトという存在を見直してくれたのだろう。
 あんなにもこの銀色の髪を恐れていたのに、今や私を見ても嫌な顔一つせず、寧ろああやって笑って声をかけてくれるまでに至った。

「おいディオ、ラーク! テメェ等ばっかずりぃぞ、王女殿下に贔屓されてよ!」
「何かオッサンがうるせぇな」
「あぁん? まだケツの青いガキの癖に生意気だなァ!」
「がはははっ、しつこいオッサンとかゴミ以下じゃねぇか」
「え、オレしつこい? つーかテメェもオッサンだろうが」
「それもそうか、ダァハハハハッ!」
「がはははは!」

 簡単に手を振り返していると、露天のおっちゃん達がディオ達へと軽い野次を飛ばす。それに辛辣に返すディオ。だが彼等はこんなの慣れっことばかりにそれを笑いへと変えた。
 本当にディオ達はこの街の人達に慕われてるな。と思いながら、「こんな所でオッサン同士が乳繰り合うなよ…………」と呆れた顔でため息をこぼすディオの背を眺める。
 その時、ふと視界の端にラークの横顔が映った。何かをじっと、慈しむように見つめるその視線の先には──ディオがいて。
 ラークは随分と楽しそうにディオと話していた。だが時折、ふと辛そうな表情をしているみたいだった。
 それが妙に頭に引っ掛かって、私は暫しラークを観察していた。ずっと彼を見つめていたものだから、メイシアに不審がられてしまった。

「アミレス様、さっきからずっと彼を見てますが……何か理由がおありなのですか?」
「えっ? いや、特には……」
「でしたら彼を見ずに街を見ましょう! それかわたしを見て下さい!」

 メイシアはその場で立ち止まり、リスのように頬を膨らませて可愛らしく怒っていた。その顔が本当に可愛くて、私は無言で彼女の膨らんだ顔を手で包み、むにむにと触る。

「ひゃうっ!?」

 メイシアが不思議な声を漏らす。みるみるうちに彼女の顔が赤くなっていくのだが……しかし私はメイシアのツルスベもちもち肌をもう少し堪能したくて、暫くはそのままむにむにとし続けていた。
 この状況、誰がどう見ても異様でしかない。その為、周りの保護者達が何事かとばかりに困惑した表情をこちらに向けてくる。
 三分程メイシアの頬を堪能した頃だろうか。メイシアの恥ずかしさが限界を超えたのか、その瞳には涙が浮かび始めていた。
 それを見てようやく正気を取り戻した私は、慌てて弁明をする。

「メイシアって本当に可愛いね……私が男だったらどんな手段を使ってでも嫁にしてたよ」

 ん? 弁明するんじゃなかったの? 一体何をほざいているんだこの口は。
 ハッとなり、今度こそ弁明をと口を開いた時。メイシアの顔が先程よりもずっと真っ赤になって、更には涙も止まったようで。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 メイシアは両手を赤くなった頬に当てて、声にならない声をあげていた。何度も口をパクパクとしては、興奮の中で言葉を探すように視線を泳がせていた。
 結局何も言葉が出て来なかったのか、頭から湯気が出そうなぐらい顔を真っ赤にしては、メイシアがこちらに倒れ込んできて。

「…………すきです。だいすきです、アミレスさま」

 彼女の体を受け止めた私の耳元で、熱っぽい声でメイシアはボソリと零した。それはいわゆる愛の告白というもので……私も好きだよと返すべきなのかな、と考えていた時にふと気づく。
 本当に熱でもあるんじゃないかと思う程、メイシアの体が熱いんだけど、これ大丈夫なやつ??
 そんな私の心配など他所にメイシアはゆっくりと顔を上げて──、

「わたしをこんな風にした責任、取ってくださいね」

 私の頬に温かい唇をそっと触れさせた。その時のメイシアの表情が年齢不相応に色っぽくて、私は言葉を失った。