「はい。では、比較的良い情報からにします。実は先日、妹との交流を図るべく二度目のお茶会を行ったのですが」

 え、そんな事してるんですかこの人。何ですかその興味惹かれる催し事は。第三回があれば見に行きたい……!

「一度目のお茶会と比べ、会話が増えました。そこで判明したのですが……どうやらアレは皇位に欠片も興味が無いようです。『兄様の覇道の邪魔はしませんので、貴方も(わたくし)の邪魔はしないでくださいます?』と言われました」

 何とも微笑ましい報告だ……と思うも束の間、サラッと目玉が飛び出るような会話をしていた事が明らかになる。
 一年前より、フォーロイト帝国の社交界はシャンパージュ家とララルス家を筆頭にした王女派と、元々社交界の大半を占めていた皇太子派の二つに分かれ、二極化していた。

 それまで、皇位争いがないからと中立の立場に立っていた二つの侯爵家と、帝国建国初期からずっと中立であり続けた伯爵家。その三つの家門が突如として、砂上の楼閣だった王女殿下を支える強固な要塞となる事を選び、皇太子派との対立を選んだ。
 何が恐ろしいって、ララルス家と仲の良いオリベラウズ家とフューラゼ家までララルス家の影響で王女派に傾き、最近ではテンディジェル家までもが王女派に与したと噂されている。

 つまり、帝国貴族の大半が皇太子派に属していようとも……その対抗馬となり得てしまう強い後ろ盾を、彼女は得てしまったのだ。
 皇太子派が質より量ならば、王女派は量より質。まさに少数精鋭だった。王女殿下にはほんの僅かな家門しか追従していないが、その僅かな家門が一つ残らず社交界で絶大な影響力を有するものだから、始末に負えない。

 そんな厄介な対抗馬が現れたから、彼女に継承権が無いと分かっていても、フリードル殿下に追従していた貴族達は酷く焦った。
 もし万が一、約束されていたフリードル殿下の覇道が突如湧いて出た王女派に邪魔されでもしたら──。そう考え、王女派を何とか失脚させようとしては尽く返り討ちに遭うなんて事がこの一年で何度もあったのですが……。

「まさか、彼女はそんな重要な事をただのお茶会でサラッと言ったのですか? 一体、その一言で社交界にどれだけ影響が出る事か…………」

 (わたし)は驚きから口元を押さえた。
 彼女のその一言で社交界の代理戦争は終わり、それと同時に王女派の存在意義が問われる事になる。それもその筈……本当に、王女派は突然頭角を現したのだ。
 氷結の聖女の噂が帝国にも広がり始めた頃。
 その噂を利用して、彼女を皇位争いに参加させようとしているのかと誰もが勘繰る程に、あまりにも鮮やかに破竹の勢いで王女派は社交界にその存在を知らしめた。
 シャンパージュ家、ララルス家、ランディグランジュ家、オリベラウズ家、フューラゼ家、テンディジェル家。

 これらの有力家門ばかりを自派閥に引き込んで、皇位を争うのではないのなら、王女は何を企んでいるのか──。
 そう、誰もが王女派を……王女殿下を恐れる事となるだろう。フリードル殿下の覇道が約束されているにも関わらず、もしかしたらまた王女派に安寧を脅かされるやもしれない…………そんな恐怖に、怯え続けなくてはならなくなるのだ。
 一度生まれたが最後、完全に滅するまでは延々と恐怖を振り撒き続ける存在。それが──フォーロイト帝国が社交界の、王女派閥である。

 だからこそ事の真相が酷く呆気ないものに思える。ララルス侯爵とシャンパージュ伯爵がそんな派閥を作った理由が、『王女殿下を権謀術数から守りたいから』と言うものですからねぇ。
 派閥の主導者が、王女殿下の為に爵位簒奪をした女侯爵と絶対中立を捨てた伯爵なだけはありますよ。こんな事、貴族達が聞いたら怒髪天を突きそうだ。