ある冬の日だった。僕《わたし》は、それはもう頭を抱えていた。

『──領地内で王女殿下とローズニカ公女の誘拐事件が発生して、領主の城が半壊し、王女殿下達を救い出す為の戦いで二百人近い犠牲者……秘密結社ヘル・スー・ベニアと名乗る襲撃者組織は未だ行方がわからず、即位式は中止してログバード氏が暫く大公を継続。大公位の継承権は弟のセレアード氏から、長男のレオナード公子に。だがレオナード公子はまだ幼い為、いずれ帝都に向かわせて大公の名代として仕事をさせる……この件に関する罰は王女殿下より個別に受けているものの、改めて処罰を受ける所存であり──……』

 早馬で(わたし)の元まで届いた大公からの書信には、謝罪と状況説明がびっしりと書かれていた。これを読んだ時、本気で目眩がした。あまりの情報量に額に手を当てて天を仰いだぐらいだ。
 ──あの、ものの一週間で何が起きてるんですか?! 
 彼女はどうしてそう行く先々で厄介事に巻き込まれるのか。彼女はもう、そういう星のもとに生まれてしまったのではないかと眉間を揉む。

 まあ、最早起きた事はしょうがない。彼女は無事なようですし、彼女自身からも何か罰を与えたみたいだから、(わたし)がすべきなのは法に則った罰を与えるだけ。
 とりあえず上納金増額は決定として上納品目を増やしてやりますか……数年前に『あれ生産量少ないから嫌だ』とか言われて断固拒否された絹の布地なんてどうだろうか。シャンパージュ伯爵家辺りに流せば確実に帝国の服飾市場が更なる活性化を…………っと。

 細かい話はひとまず置いておこう。ディジェル領の一件は確かに法に則り罰を与えるべきなんだが──、いかんせん当事者の彼女が許しちゃってるっぽいのがなぁ。
 そりゃあ、当然然るべき罰は与えるとも。もし彼女に被害が出ていて彼女が許してないのならば、(わたし)は法など無視し、家門も領地も滅ぼす勢いで徹底的に制裁を下していただろう。
 だが彼女に被害らしい被害は出ていなかったらしく、かつ彼女が許してしまった。ならば(わたし)には、あくまでも法に則った罰を与える事しか出来ない。

 誠に遺憾ではあるが、幼き王女が広い心で慈悲を見せた以上……我々が厳罰に処すと彼女の面目を潰す事となってしまう。
 陛下などはそれを良しとする…………というか気にしないでしょうが、(わたし)は気にします。なので、じわじわ苦しい罰に留めておいてあげましょうか。と上納金の増額と上納品目の追加を通告したのですが。

「あのテンディジェル家が通告からたったの数ヶ月で通告通り……いやそれ以上の納税をするなんて。今年の冬は槍でも降るのだろうか」

 かの大公家に、罰と称して様々な事項を通告してからはや三ヶ月。眼前には、通告以上の数の品々が広がっていた。
 これらは二ヶ月近くに渡りディジェル領から送られて来た上納品。それが山のように積み重なっているのだ。
 テンディジェル大公はかなりものぐさな性格で、年貢に関しても期日より遅れて納める事が多い。それでも規定通りの品々と金額は納めている為大目に見て来ましたが……まさか、こんな日が来ようとは。
 本当に、一体何が起きているのか。これまでのテンディジェル大公ではまず有り得なかった出来事が起きていますが、レオナード公子が次期大公に内定しただけでこんなにも変わるものなのか。
 こんな事ならもっと早く、レオナード公子には次期大公に決まって欲しかったですね。さすれば苦労しなくても良かった事がいくつも……。