「大丈夫だよ、ラフィリア。僕の夢は決して壊させない。もう誰にも、僕の願いを邪魔させたりなんてしない。だから君が恐れるような状況には、きっとならないとも」

 確かにラフィリアの言葉はミカリアに届いた。だが、既に恋に狂ったミカリアは……ラフィリアが望む答えとは違う答えを導き出してしまったのだ。

「ラフィリアの心配は、僕が失恋した日には壊れてしまう……というものでしょう? なら、簡単な話だ。失恋さえしなければいい。どんな手段を使ってでも、僕が姫君と結ばれたらいい話だ。というか……もはや、僕にはそれしか道が残されていないのだけど」

 ふふ、と穏やかに彼は笑う。

(ラフィリアの言う通り……本当に失恋してしまったら、きっと僕はショックのあまり自殺とかしちゃいそうだからなぁ。だったらやっぱり、どんな手段を使ってでも彼女と結ばれないといけないな)

 予想の斜め上の発言をしたミカリアに、ラフィリアが唖然とする。
 だがミカリアは……ある少女を想うあまり、腹の底から湧き上がったうだるような熱情に頬を赤らめて、耽美的に笑みを浮かべているだけだった。

(……──アア、モウ、駄目ダ。当方ニハ、主ヲ止メラレナイ。コウナッタラ、主ノ言ウ通リ……氷ノ王女ヲ、何トシテデモ…………)

 もはや、こうなってしまったミカリアを止める事など不可能。そう悟ったラフィリアは、難しいと分かっていようともミカリアに協力する道を選んだ。
 ハァ……と溜息を零しては、ミカリアの檸檬色の瞳を見る。壊れている筈なのに、今まで見て来た中で最も爛々と輝くその瞳に、ラフィリアは誓う。

「当方ハ、主ノ為ニ製造サレタ物。ダカラ当方ハ主ニ従ウ。主ノ夢ヲ、ソノ願イヲ守ル。ソノ代ワリ主モ約束シテホシイ」
「約束?」
「……死ナナイデ。コレカラ先モズット、主ハ当方ノ主デイテ」

 ミカリアはたまげたように目を丸くし、程なくして優しく微笑んで、ラフィリアをそっと抱き締めた。
 そのピンクゴールドの髪を撫で、ミカリアは強く言い放った。

「──勿論だとも。僕の恋はまだ死なない。絶対に死なせてなるものか。だからね、ラフィリア……これから先もずっと、僕を君の主でいさせてほしい。だからどうか、僕の願いを叶える手伝いをしてくれないかな?」
「……当方ニ、拒否権ナド最初カラ無イ。当方ハ……主ノ為ニ在ルノダカラ」

 国教会の聖人、ミカリア・ディア・ラ・セイレーンと、その腹心であり黒の亡霊と呼ばれるラフィリア。
 全く同じ日に生まれその運命を共にする彼等は、手を取り合い、今一度永遠の主従を誓いあった。

(セメテ、当方ダケハ何ガアロウト主ノ味方デイナケレバ。例エ……世界ガ主ノ夢ヲ、モウ一度否定シヨウトモ──)

 この先の未来に何が起きたとしても、必ず最期の時まで共に在る、と…………。