「……ジェーン。あの女はいつ頃帰って来るんだったか」

 何やら波乱に満ちていたというディジェル領の一件。それに巻き込まれたあの女がいつ頃帝都に戻るのかと、ジェーンに確認する。
 ジェーンは玩具を見つけた猫のようにニンマリと笑って、

「下旬頃かと。三月の頭……雪が溶ける前に、雪花宮の温室でお茶会と洒落こみます?」

 謎の企画書を見せてきた。一体こんなものいつ何の為に用意したんだと眉を顰めたくなるような、僕が主催するお茶会の企画書。

「はぁ。僕はお茶会の作法やルールなど知らない。だから準備(・・)はお前に任せたぞ、ジェーン」
「──御意のままに、我が君(マイ・マスター)

 左胸に手を当て深く腰を曲げて、ジェーンは鋭く笑った。
 音もなく姿を消し、彼はお茶会の準備に向かったのだろう。考えるだけでも面倒だが……仕方無い。これも、あの女をこの手で(ころ)す為だ。
 母上の望むような兄妹になって、あの女を愛せば…………きっと、殺す事への躊躇いも後悔も障害も無くなる事だろうから。


♢♢♢♢


「我が愛しの妹よ。今日はよくぞ僕の呼び出しに応えてくれたな」
「……っ、は……はぁ。本日は、何のご用件でしょうか?」

 数ヶ月ぶりに見た妹は、心底嫌そうな重たい表情で頬をひくつかせていた。ふむ、この場に来た事が不本意である事は一目瞭然だな。
 それ以上に、僕が愛しのだなんて言い回しをしたからか若干引いている様子すらある。何なんだお前は……あれ程に僕に愛されたがっていたのに、いざ愛されると嫌がるだなんて。
 意味不明な奴だな…………。

招待状(・・・)には日時と場所しか記載しておかなかったからな、お前も知らないのだろう」
「……それで。日々たいへんお忙しくあそばされるお兄様が、(わたくし)なぞに何のご用で?」
「そう急かすな、ひとまず席につけ。それとも……僕とは同じテーブルに座りたくなどないか?」
「えぇそうですわね。お兄様と同じテーブルに座るなど、恐れ多いですもの」
「僕自身が気にするなと言っているんだ。気にせず座れ」

 互いに笑みなど一切浮かべず淡々と、されど嫌味の応酬で会話する。その結果、奥歯を噛み締めるような表情で、妹は渋々ながら僕の向かいの椅子に腰掛けた。