ボクが精霊王(ボク)として創られたあの日から一万年。ボクは何度も朧げな紛い物の死を繰り返し、退屈な日々の中何とか楽しみを見つけようと人間界を見守っていた。
 君に初めて会って、この名前を貰ったあの日から七年。ボクはそれまでの一万年の時よりもずっと楽しくて、キラキラと輝いている日々を送っていた。
 そんな素晴らしいものをボクにくれた君に、ただ見守るだけでは終われないのは自明の理。

 ボクはいつしか──……君とちゃんと会いたい。ボクが君を守りたい。この目で、君の笑顔が見たい。そう、思うようになっていた。
 それがようやく叶い、幸せを噛み締めていたというのに。
 ……なんだい。また新しい女の子を心酔させ、変な男を引っ掛けたり、カイルに向かって縛れとか。いやもう最悪それはいいの。
 一番の問題はあの犬! アミィの膝に乗って頭を撫でてもらうのはボクの特権だったのに!

 しかも凄く、凄くボクの嫌いな系統の気配がするというか……ものすごーく嫌悪感が湧くというか。明らかにこの世のものではない異物というか。
 まるで身内の仇を見るような鋭い目でボクに対して吠える犬に、当然非常に苛立ちを覚えた。たかが畜生風情がこのボクに楯突くなんていい度胸だな、立場ってものを分からせてやるよ。

 なんて意気込むも束の間、どこからともなく出て来た美の最上位精霊(ベルズ)が好きなだけ喋り倒して飽きたからと自由気ままに帰って行った。
 ボクがこの姿で人間界に来る為には、いわゆる越界権限が必要な各世界間の自由移動禁止みたいな制約が邪魔だったから、勿論それも破棄したんだけど……そのお陰もあってか、最上位精霊達が次々と数千年振りの人間界を楽しもうとしていた。

 これまではわざわざボクに許可を取らないと人間界に行けなかったから、その制約がなくなり、誰もが自由に人間界に行けるようになったのだ。
 なのでこれからもこのように、突然知り合いの精霊が現れる可能性もあるという事。大変面倒である。

 だって、アミィは容姿の整った人(特に可愛い系)に弱いようなのだ。そして精霊は神々が創った存在なので、基本的に容姿が整っている。そういうものなのだ。
 幼い頃からエンヴィーに会わせていたから、意図せずその辺の耐性はついたみたいで、簡単には人の容姿に見蕩れたりしてないけど……。
 逆にその所為か、アミィはボクの姿を見ても特に何も反応がなかった。これは耐性をつけすぎてしまったなあ、と少し悔しくもあった。

 なんなら、目立つからと変身したケイの顔の方がアミィもいい反応をしていた気が。うーむ、これでもボクは精霊界一の美しさって言われてるのにな。
 アミィの事だから、この顔を見たら『凄く綺麗! シルフってめちゃくちゃ美人だね!』って飛び跳ねて喜び褒めてくれるものだと思ってたのに。ちょっと肩透かしを食らっちゃったな。

「……──って事があってさぁ、もうほんとにアミィって難しい子だよね〜〜っ」

 一度仕事の為に精霊界に戻ったボクは、仕事の山に囲まれ顔を青くするエンヴィーに向けて愚痴を零していた。

「愚痴って割にさっきからもうずっと惚気じゃないすか……なんだよこのヒト、仕事の為に戻って来たんじゃねーのか…………?」

 急ぎの仕事は全て彼に任せていたので、エンヴィーは生気の抜けた顔になっていた。
 こうしてエンヴィーに愚痴を零している時には、今朝方アミィとの間にあったギクシャクなんてすっかり気にしなくなっていて。
 ボクは両手で頬杖をつき、足をぶらぶらとさせながら、一方的に語り続けていた。