「セレアード氏、ご安心を。帝都で何か困った事などあれば(わたくし)がいくらでも力になりますから。(わたくし)に出来る範囲の事ならば、ですけどね」

 私はローズと約束した。帝都で二人の居場所になると。
 ならば、私に出来る限りの事をしようじゃないか。二人が困ってたら力を貸すし、何かあれば頼って欲しい。私でよければ、力になるから。
 だから安心してくれと。自信満々にセレアード氏に告げると、彼はホッとしたように微笑み静かに頭を下げた。
 どうか二人をよろしくお願いします──そんな、子供達の平穏を祈る親の気持ちがひしひしと伝わってくるようだった。

「ところで……無知で恥ずかしいのだけど、どうして二人が帝都に来るのはローズの誕生日が終わり次第なのですか?」

 実は昼間から気になっていたのだが、聞くに聞けない空気で結局分からずじまいだった事を尋ねる。
 これにはローズ本人が答えてくれた。

「えっと……風習みたいなもので、この領地の人は妖精の祝福が体に馴染むまで領地から出ちゃ駄目なんだ。その祝福が完璧に体に馴染むのは生まれてから十五年経ったら、って言われてて……だから十五歳になるまでは領地の外に出たら駄目なの」

 へぇ、そんな風習が……と呑気に感心していると、

「ローズの誕生日は八月なので、帝都に行くまであと半年はかかってしまいそうです。ごめんなさい、王女殿下」

 レオがそうやって補足しつつ、謝罪して来るのだ。ローズは今十四歳だから、あと半年経たなければ十五歳にならない。そこから一ヶ月かけて帝都まで来ると考えたら……九月? えー、そんなぁ。本好きだというレオとローズに王城の大書庫とか案内してあげたかったのにぃ。
 ……まぁ、それは二人が帝都に来てくれたらいつでも出来る事だし、気長に待つ事にしよう。

「別にいいよ。二人が帝都に来てくれる日を首を長くして待っておくから。せっかくだし、帝都に来たら皇宮までおいでなさいな。こっちで話は通しておくからさ」
「ここっ、皇宮!?」
「そ、そんな……俺達には畏れ多い……」

 二人の歓迎会でもしようかと思い、皇宮においでよと誘ったのだが、二人共あまり乗り気ではないらしい。別にただ皇宮ってだけでそんな気負いするような場所じゃないんだけどな……。

「私が住んでる東宮は私一人の家みたいなものだし、友達の家に遊びに行く感覚で来てくれたらいいのよ? なんなら泊まりで夜通しパーティーでもする?」

 私の東宮(いえ)は住み込みで働いてる人が多いから、もう泊まりとかへの抵抗は特に無い。盗られたら困る品々などは一箇所に集めて厳重に管理してるので問題無し。
 なのに皆はあそこが皇宮というだけで泊まる事に難色を示すのだ。しょぼーん……。

「夜通しパーティー……」
「ローズ、ちょっと魅力的だななんて考えてない?」
「お兄様だって同じでしょう! アミレスちゃんのお家で夜通し寝間着(パジャマ)パーティー……そんなの断る方が愚策ですっ!」
「うっ、それはそうだけど……いやでも相手は王女殿下だよ? 俺達はあくまでも彼女の臣下であって。畏れ多いんだって」
「でもアミレスちゃん直々にお友達の称号を授けていただいた、立派な友達でもあります。ヘタレなお兄様に代わって私がお返事致しましょう!」

 ローズはくるりとこちらを向いて、興奮からか頬を赤くして宣言した。

「──是非とも、私達が帝都に向かった際には寝間着(パジャマ)パーティーにお誘いください! どうか、何卒!!」
「……ふふ、前向きな答えを貰えて嬉しいわ。その時は招待状を出すから、ちゃんと受け取ってね?」
「はいっ」

 あまりにも彼女が嬉しそうに笑うものだから、こっちまで嬉しくなる。
 満面の笑みで鼻歌を歌うローズの横で、レオが項垂れている。しかし僅かに見えるその横顔には笑みが浮かんでいて。
 やっぱりレオも嬉しいんじゃないの。だってレオは女友達扱いを希望するぐらい、キャピキャピした友達に憧れていたみたいだし。こんな絶好のリア充イベント、彼的にも逃す訳にはいかないのだろう。
 もう、素直じゃないんだから〜〜。