1992年(平成4年)8月7日
 今日もいつもの日常が始まった。
尚哉は朝ご飯を食べ、いつもの様に会社に行った。

 これから陽斗と2人きりの時間が始まる。
陽斗は生後6ヶ月になり、離乳食も始まっていた。
陽斗のイヤイヤ攻撃や、泣きわめき攻撃に、こっちも泣きたい気持ちになる時もあるが、そこはグッと堪えて、育児に掃除、買い物にと忙しく動いていると、気が付けばもう夕飯の支度をする時間になっていた。

 今日の夕飯は麻婆豆腐に決めている。
材料は豆腐と挽き肉、ネギに麻婆豆腐の素があれば、フライパンひとつで時短で出来る。
育児中の主婦には最高の料理である。

 陽斗のご飯も済ませ、お風呂にも入れて、後は尚哉の帰りを待つばかりになっていた。
 尚哉はいつも8時〜9時頃に帰宅する。しかし、今日は9時過ぎでも帰宅せず、何の連絡もない……。
『仕事が忙しいのだろうか?』

『何かあったのだろうか……』

『どうして電話してくれないのだろうか?』

思い付くままに考えていたが、 1 1時過ぎでも帰って来る様子もなく、時間だけが過ぎていった。
 ついに 12時を過ぎて日付けが変わってしまった。
もし、終電に乗ったとしたら、家に着くまでにはまだ時間がある。
終電に乗って帰って来て欲しいと願いながらも、私の気持ちは不安と混乱が入り混じった、複雑な気持ちへと変化していった。