1994年(平成6年)1月14日
午後を少し回った頃に固定電話のベルが鳴った。「もしもし」と私は受話器を取った。
「橘さんのお宅ですか?」
ハキハキとした話し方をする女の人だった。私はまた何かのセールスの電話だなと思った。
ことろが電話の女の人は、
「私は橘さんと同じ会社の者ですけど……」
「えっ⁈」私のことなど全く気にしてないように続けた。
「私は橘さんと付き合っています。橘さんは離婚して私と一緒になると言ってたけど、そういう話しはあったの?」
「えっ⁈」
こんな形で尚哉の浮気相手と話をするなんて夢にも思っていなかった。突然の嵐のような電話に、胸の鼓動が早くなり息苦しさを感じ始めていた。
『離婚』という言葉が耳の奥で何度も響き、受話器を持つ手は汗ばんできた。
挑発的な言い方にも腹立たしい気持ちなった私は、
「そんな話しはなかった……」
夫とは浮気が原因で何度も喧嘩していて、夫婦仲は最悪だったが離婚という言葉は出て来なかった。