「あら、血が出てるわね。どうしたの?」


「バスケしてたらゴールのとこで腕擦って」

彼はそう言うとテッシュで押さえていた傷口部分を畑中先生へと見せる。


私は今のうちに保健室を出ようとソファーから立ち上がった。


すると「なぁ、飴ちゃん食う?」と手当てを受けていた彼が私に話しかけてきたのだ。 

この質問でただ首を横に振るのは失礼だよね?

(な、何か言わなきゃ)

私がそう考えていると、彼は話を続けた。


「母ちゃんが朝、ポケットに突っ込んできてん。こんなようさんいらんって言うたのに。おかげでポケットパンパンや」


「大阪のおばちゃんがよう飴ちゃんくれるあれ、何やろな?」と言うと彼は大きく口を開けて笑った。


大阪のおばちゃんのことを不思議そうに語る彼が話すのは関西弁。


「おーい、聞いてる?」


何の反応もよこさない私に、彼はひらひらと手を振った。

き、聞き入ってる場合じゃなかった。

えっと、何聞かれてたっけ?

あっ、確か飴を食べるかって……。

(早くメモに返事を書かなくちゃ。)