「ふふ、良かった。たくさん食べたのね。次の授業は確か美術だったかしら?」
《はい。今日はデッサンです》
「先生も昔よくやったわ。えーっと20年前?あらやだ、もうそんなに経つのねぇ」
畑中先生はそう言うと続けて「どうりで歳を取るはずだわ」と笑った。
《先生は見た目も中身もお若いですよ》
「まぁ、褒めたって何も出ないわよ」
私はこうして紙とペンもしくはスマホを使って筆談を行うか、ジェスチャーを織り交ぜないと会話ができない。
失声症(心因性発声障害)と診断されたのは今から丁度1ヶ月前、5月のことだった。
失声症とは簡単に説明すると声が出なくなること。
その主な原因はストレスや心的外傷だと言われている。
原因がはっきりとわかる人もいれば、そうじゃない人も。
私の場合は前者。
家庭環境が大きく関わっていた。