A棟に来るまでの間、織田くんとはすれ違わなかった。
帰るならこっちの道を通るはずだから、まだ教室にいるはず。
1組の教室に到着し、後ろのドアから中を覗くと織田くんとミヤくん、それから幸太郎くんの三人が残っていた。
「え、狩野ちゃん?」
織田くんはそう口にすると勢いよく席を立つ。
私は軽く会釈をすると、1組の教室へと足を踏み入れた。
「あ、俺こんなとこでゆっくりしてる場合じゃなかった。リアタイしたいテレビあんだよ」
ミヤくんは私にも聞こえるような声でそう言うと鞄を手に取った。
続けて幸太郎くんも「俺も約束あるんだった」と言い席を立つ。
二人は「またな」と織田くんに伝えると私に何やらアイコンタクトして、教室から出て行った。
(も、もしかしてわざと二人きりにしてくれたの……?)
二人の気遣いに感謝しつつ、私は織田くんの元へと歩み寄る。
「ど、どうしたん?」
明らかに動揺している織田くんに私は自分の気持ちを伝えようとする。
……が、ポケットに入っているはずのメモとペンがない。
(あれ?あ、そういえばベッドの上に置いてきたような……)
スマホが入った鞄も保健室。
つまり、私は今自分の想いを伝える術がない。