「一瞬でも気づくって。前に言うたやん。俺は狩野ちゃんやったらどこにおっても見つけられるって」

それってあの場のノリで出た言葉じゃなかったんだ。

《織田くん友達と話してたから気づいてないと思ってた》

「俺が気づいた時にはもう通り過ぎる時やってん。手振ってくれたら良かったのに」

織田くんは続けて「保健室以外で会う機会なんて滅多にないからもったいないやん」そう口にした。

手を振っても良かったんだ。


自分からアクションを起こすことなんてこれっぽっちも考えなかった。

それどころか、織田くんの方から気づいてくれないかな。

そんな甘い考えを持っていた。


《今度、織田くんを見かけたら手を振ってもいい?》

「当たり前やん。俺も狩野ちゃん見かけたら全力で手振るから、無視せんとってな」


織田くんの言葉で心の霧が、スッキリと晴れていく。

遠い人だなんて勝手に決めつけて、落ち込んでいた自分がバカみたいだ。


《無視なんかしないよ》

「約束やで?あ、そういえば俺今日ミヤ達と学食やってんけど、狩野ちゃんって学食のお好み焼き食べたことある?」

《学食、行ったことがない。お好み焼きもあるの?》