どこからか微かに花の香りがする。
この会場では不似合いな匂いに意識を取られたとき声を掛けられた。

ショーの間、話をする人なんていなかった。
特に1人で来たあたしに話しかける人などいるわけながい。



「香坂さん、」



腰を屈めてやってきた都さんに驚いて顔を向けたけど、驚いたのはあたしだけではなかったみたい。彼女の驚いた表情が眼に映って、しまったと思った。
都さんから顔を背けて一筋だけ垂れた雫を拭った。



「大丈夫ですか?」

「ええ、もう大丈夫だわ、ありがとう。それで、…………それってもしかして?」

「はい、ランウェーを歩いてきた柏木くんに、渡してもらえますか。牧くんも、幹彦くんも私もそれが一番柏木くんにとってうれしいと思うから」