あたしの席はランウェーのすぐ下、と言うわけではなくて少し離れたところで、首が痛くならない程度の距離だった。
その距離から見る男性モデルの顔は見たことがあった。

そしてふんわり微笑まれる。
今度は確実な意志を持ってあたしを見ていた。



「…………ミキ?」



口の動きでわかったのだろうか、微かにコクリも頷いた。

えっ!


声を出さないように手で口を抑えたら、彼はくるりと一回転して戻っていた。既に次のモデルさんがすぐそこまで来ていた。


あの、無表情で、仏頂面の彼があんな笑顔するの。
別人みたいに、終始レディーファーストな態度でランウェーを歩いてきたモデルだった。


彼はモデルとしての仕事をきっちりしていた。
あたしに微笑んであたしに印象付けるように。


最初の数分はその衝撃であまりショーを見ていなかった。

翔太は、このファッションショーにどのような形でかかわってるのかしら。

ファッションショーなんだからファッションを見なきゃいけないんだろうけど。モデルが着ている服はどれもこれも見慣れたもの。
組み合わせ次第でいろいろと変わるのだろうけど、それでもあたしは翔太のことに頭が取られていた。


落ち着いてきたころ、他のモデルさんを見る余裕が出来て見ているうちにあることに気付いた。


みんなあたしを見てる?