「た、だいま……」



昨日の電話では夕方には帰ると言っていた。だからあたしの仕事が終わって家に帰れば翔太はもう家にいるはずだった。

鍵を取り出さずにドアノブを捻ってみれば案の定なんの抵抗もなく開く。
玄関にも見慣れた翔太の靴も置いてあるし、帰ってきてるのは間違いない。


ドアノブを握る前から緊張していた。掠れた声がそれを如実に表していた。

カタン、とヒールを鳴らして部屋へと続くドアを開けた。



「よぉ、お帰り。飯食ったか?」



出張帰りなんて微塵も感じさせず、翔太はソファーのいつもの場所に座っていた。
あたしの立つ位置からは翔太の後頭部しか見えない。

だけどその後ろ姿は昨日の電話であったような違和感は感じられなかった。


だからあたしも普段通りに、と念じながら翔太の横に腰を下ろす。



「食べてきたわ……翔太が、食べてこいっていったから」



真っ先に帰って翔太の顔を見たかった。
けれど怖くもあった。

だから同僚の誘いに躊躇しながらも翔太にメールを送ると行ってこい、と。
ファミレスで軽く食事をして帰ってきたのだ。



「なら、もう何も気にすることはねぇな」