悠なら、俺と莉子が最近なかなか会えていないという事情を知っている。

それに、この借りはなんでもする。


――そう思っていたけれど。


「…ごめん。オレもこのあと用事があんねん」


そう言って、悠はキャップを深く被った。

まるで、俺と視線を合わせようとしないかのように。


「そっか…」

「それに、部長から頼まれたんやろ?それなら、大河が行かへんでどうするん」

「…やんなぁ」


悠にもそう言われ、もう諦めるしかなかった。



プルルルルル…

〈もしもし、大河?練習終わった?〉


電話をかけると、上機嫌な声ですぐに莉子が出た。


この声のトーンからして、楽しみに待っていてくれたはずだ。

俺もそうだ。


――だけど。


〈…ああ、莉子?ごめんやねんけど、今日…会えへんくなった〉