やっぱり穂波の念力は、怖い力だと、時隆は首を横に振ってみせた。

 生前、時隆は籍を入れることもなく、周りからいつも入籍や跡取りの話を迫られていた。彼が誰もそばに置かなかったのは、失った大切な人の存在があるからなのだろうか。

「穂波……何をして」
「時隆様が、泣きそうな表情をされているからです」

 傷ついた時隆の表情を見て、何かしてあげたいと思った穂波は、自分よりも少し高い目線にある時隆の髪に手を伸ばすと、子供を慰めるように撫でた。

 ぽかんと、呆気にとられながら穂波を見ていた時隆は、次第に肩を震わせて笑い始めた。

「っ、はは、穂波って本当に素直だね。普通、励ましたいからってそんなことする? 見た目はこれでも、俺は藤堂時隆なのに」

 おかしな子だねと時隆は目を伏せ、それから穂波の手首をとって彼女を抱き締めたのだった。

「! 時隆様」
「ありがとう、穂波」